2017年10月31日火曜日

【報告】2017.10.31「事実上の主張」をまとめた原告準備書面(16)を提出

本日、前回9月5日の平八重一之氏の証人尋問の結果を踏まえて、「原告の事実上の主張」のいわば集大成ともいうべき原告準備書面(16)を作成し、裁判所に提出しました(そのPDFは->こちら)。

この続きの「原告の法律上の主張」の集大成である原告準備書面(17)は翌11月1日に提出しました(その記事->こちら PDFは->こちら)。
合わせて、以下の証拠も提出しました。
証拠説明書(15)
木暮一啓東大教授の意見書(3)


)付言--10年目の節目を迎えて--
 この裁判は、2005年4月、被告が、国策の名の下に、耐性菌問題、交雑問題など様々な安全対策について安全性が確認されていないまま、屋外で遺伝子組換え実験を実施すると発表し、これを知った多くの市民と地元自治体の反対の声に真摯に耳を傾けることもなく、市民に十分納得の行く説明もないまま、5、 遺伝子組換えイネの田植え強行されたことに端を発し、屋外遺伝子組換え実験の中止を求める仮処分裁判の申立がなされた(禁断の科学裁判

 他方、 かねてから情報公開をライフワークとし、わが国の人権保障の歴史にも輝かしい一石を投じたローレンス・レペタさんは(彼の著作「闇を打つ」)、先端科学技術に対する市民のコントロールの重要性という観点からこの事件関心を抱き2007年、耐性菌問題について被告が実施した実験の生データを記録した実験ノートの公開を求めて、開示請求を行ないましたが、被告は「実験ノートは研究者の私物であるから、開示の対象である法人文書に該当しない」として開示を拒否してきました。そのため、レペタさんは、被告のこの処分の取り消しを求めて、この裁判を提訴しました。

  先端科学技術の現場がいかに危ういもので、闇であるかは、福島原発事故私たちの頭に叩き込んでくれました。とはいえ、先端科学技術の現場に身を置いた経験のないレペタさん代理人弁護士にとって、遺伝子組換え技術の実験とその実験ノートの運用の実情を理解し、これを裁判所に伝えることは「言うは易き、行い難し」の至難の技でした。そのため、ずっと、ジグザグの試行錯誤の中を手探りで歩むようなものでしたが、開示請求手続から10年、ようやく私たちはこの問題の核心を掴み、実験ノートの情報公開について、確信をもってあるべき姿を提示することができるのではないかという信念に到達したように思う。かつて、「国敗れて3部あり」名を馳せた行政部の藤山雅行判事、「法律家の仕事は同時代のみならず歴史的な評価にも耐えるものでなければならない」と述べましたが、私たちの心境もこれと同じです。今回提出した2つの書面は歴史の審判、すなわち歴史の中で、様々な人々、市民の批判にさらされ、その無数の関所と試練をくぐり抜けて初めてその真価が明らかにされることを受けて立つ用意のある書面だということです

 しかし、そのような自負に到達した背景には、
先端科学技術の素人である私たちたちをサポートしてくれた数々の良心的な専門家の人たちの大変な努力がある。とりわけ今回の書面完成に間に合わなかった今年4月逝去された生井兵治さん(→彼の意見書)に、の書面を捧げたい 

次回期日
日時:11月8日(火)午後1時半
場所:東京地裁8階803号法廷
    民事38部 

地図 ->こちら



  *************** 


平成26年(行ウ)第521号 法人文書不開示処分取消請求事件   

原  告  レペタ・ローレンス

被  告  国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構



    原告準備書面 (16)

2017年1031
東京地方裁判所民事第38部B1係        御中
 
     
原告訴訟代理人 弁護士         晴  英

同      弁護士  柳          

同      弁護士  神  山  美 智 子

       弁護士  船             

本書面は、前回期日における平八重一之氏(以下、平八重という)の証人尋問の結果を踏まえて、原告の事実上の主張をまとめたものである。原告の法律上の主張のまとめは原告準備書面(17)で行なう。

目 次

第1、事実上の主張
1、はじめに

 本訴における事実問題をめぐる最大の対立は、平八重・園田亮氏(以下、総称して平八重らという)が北陸研究センターの病害研究室に着任した2003年4月以降、平八重らが抗菌活性実験、耐病性評価実験(本書面では、この2つの実験を総称して病害抵抗評価実験と呼ぶ〔原告準備書面(10)3~4頁参照〕)または病害抵抗評価実験に関連した実験を実施したか否かである。今、本研究プロジェクト[1]において実施された病害抵抗評価実験の全体を、①屋内と屋外、②平八重らとその前任者の中島敏彦氏(以下、中島という)及び③抗菌活性実験と耐病性評価実験という3つを軸にして6つの場面に分類したのが以下の表である(原告準備書面(15)2頁の表と同じ)。
  そこで、以下、この表の6つの場面において、誰が前記実験を実施したか、証拠に基づき存否が確実な事実から順番に吟味・検討し、最後に、病害抵抗評価実験に関連した実験について吟味・検討する。

表        屋内実験(1998年~)
関係者
①.抗菌活性実験
②.耐病性評価実験
1998年~
中島
①-Ⓐ
②-Ⓐ
2003年4月~ 
平八重・園田
①-Ⓑ
②-Ⓑ
屋外実験(2005~2006年)
関係者
①.抗菌活性実験
②.耐病性評価実験
Ⓒ 
平八重
①-Ⓒ
②-

2、屋外の平八重の耐病性評価実験(表②-Ⓒ)

(1)、この場面における最初の問題は、平八重が屋外の耐病性評価実験を実施したかである。この点、平八重が実施したことに原被告間に争いがない(被告準備書面(4)8頁4。甲49補充理由説明書1頁)。
(2)
、次の問題は、平八重が屋外の耐病性評価実験を実施した事実から、屋内の耐病性評価実験も平八重らが実施したと推定することができるか、である。結論として肯定できる。なぜなら、同一の研究プロジェクトにおいて極めて重要なことは実験データの一貫性を保証することである。実験の場所(屋外か屋内かなど)や時期によって、実験データの一貫性が損なわれるようでは研究に対する信頼が失われる。そこで、同一の研究プロジェクトで、屋内と屋外の実験データの一貫性を保証するために同一人が実験を実施するのが通常だからである(甲64木暮意見書(3)8~9頁9)。
(3)
、被告の反論
 これに対し、平八重は、証人尋問において、屋内外では接種方法が違い、屋外は植物病理学の豊富な経験に基づくノウハウが必要不可欠であることを理由に屋外では植物病理学の専門家の自分が実験を実施したとを証言した(証人平八重の証人調書〔以下、証人平八重という〕23頁)。
(4)、原告の再反論
 
しかし、第1に、たとえ屋内外で接種方法が違ったとしても、実験結果の判定法つまり発病の評価は屋内外で同一である。そして、平八重によれば、この発病の評価は《豊富な経験に基づく知識や経験がないとこれらを適切に行なうことができ》(乙16平八重陳述書9頁5~6行目)ないほど相当の専門性を必要とするデリケートな判定である。そうである以上、「実験データの一貫性を保証する」という重要課題の実現のためには、屋内外で、経験を積み習熟した同一人が実施するのが最も合理的である。本件において、それは平八重が実施することによって容易に可能である(甲64木暮意見書(3)8~9頁9)。第2に、平八重は、接種の場面において植物病理学の豊富な経験に基づくノウハウの必要性をそれほど強調して自ら実施したことを認めるのであれば、発病の評価の場面についても《どのようなものを病斑とみなすのか、病斑の面積をどのように評価するのかなど、豊富な経験に基づく知識や経験がないとこれらを適切に行なうことができません》(乙16平八重陳述書9頁4~6行目)と認める平八重が、屋内実験の発病の評価についても自ら実施するのでなければ首尾一貫しない。従って、平八重の前記反論は苦し紛れの弁解と評されても仕方がない。
(5)
、小括
 以上から、平八重が屋外の耐病性評価実験を実施した事実は争いのない事実であり、この事実から、 屋内の耐病性評価実験も平八重が実施したと推定される。

3、屋内の前任者中島の耐病性評価実験(表②-Ⓐ)

(1)、この場面における最初の問題は、中島が屋内の耐病性評価実験を実施したかである。この点、中島が実施したことは以下の諸事実から明らかである。
第1に、被告は、2001年10月3日、「いもち病と白葉枯病に強い、複合病害抵抗性組換えイネ系統の作出に成功!」という記者発表資料(甲65)を公開したが、その資料の5、研究方法の3)~5)にいもち病等の耐病性評価実験を実施した報告があり、研究担当者の1人として中島の名前が記載されていることから、この記者発表資料記載の耐病性評価実験を実施したのは植物病理学専門の中島と解することができる。
第2に、上記記者発表資料の6、研究成果の概要の5)に《9月18日に特許出願を行いました》と記載されているが、その特許出願書類が甲27の公開特許公報である。同特許公報には1頁の共同発明者として中島が名を連ねており、11頁の図1~6にいもち病等の耐病性評価実験を実施した写真や報告があることから、この特許公報記載の耐病性評価実験を実施したのは植物病理学専門の中島と解することができる。
第3に、原告準備書面(14)別紙論文は74頁の写真が示す通り耐病性評価実験に関する論文であるが、共著者として中島が名を連ねていることから、この論文記載の耐病性評価実験を実施したのは植物病理学専門の中島と解することができる。
(2)、次の問題は、中島が屋内の耐病性評価実験を実施した事実から、いかなる事実が導かれるか、である。これについて、
第1に言えることは、屋内の耐病性評価実験に関する実験計画書等(甲48の34・同36・同38[2])に実験従事者として中島が記載されているのは「植物病理学専門の中島が耐病性評価実験を実施した」ことを意味することである。これは、原告準備書面(12)第1で詳述した、実験従事者とは《組換えDNA実験を実際に実施するすべての者を実験従事者といいます。》(甲55『「組換えDNA実験指針」の解説』17頁)という見解とも一致する適切な解釈である。
第2に言えることは、そうだとしたら、抗菌活性実験に関する実験計画書等 (甲48の35・同37・同39[3])に実験従事者として中島が記載されているのも「植物病理学専門の中島が抗菌活性実験を実施した」ことを意味すると解すべきである。なぜなら、同一研究プロジェクトの実験計画書等において屋内の耐病性評価実験と抗菌活性実験とで実験従事者の意義を別異に解する理由はなく、なおかつ前記の《DNA実験を実際に実施するすべての者を実験従事者といいます。》(甲55)という見解とも一致するからである。
(3)、被告の反論
 原告は、2017年4月10日付原告準備書面(14)2で、中島が屋内で耐病性評価実験を実施した事実を主張した(4~5頁)が、これに対し、被告はこれまで反論はおろか認否すらしない。よって、擬制自白と解するほかない(民訴法159条1項)。
(4)、小括
 以上から、前任者中島が屋内の耐病性評価実験を実施した事実は証拠から確実な事実であり、この事実から、抗菌活性実験も中島が実施したことが導かれる(表①-Ⓐ)

4、屋内の平八重らの耐病性評価実験(表②-Ⓑ)

(1)、この場面における問題は、平八重らが屋内で耐病性評価実験を実施したかである。この点、平八重が実施したことは以下の諸事実から肯定できる。
第1に、前記(2)~(4)(3~4頁)に述べた通り、平八重が屋外の耐病性評価実験を実施した事実から、屋内の耐病性評価実験も平八重らが実施したと推定することができる。
第2に、前記(2)の第1(5頁)に述べた通り、屋内の耐病性評価実験に関する実験計画書等(甲48の34等)の実験従事者として中島が記載されているのは「植物病理学専門の中島が耐病性評価実験を実施した」ことを意味する。そうだとすれば、同一研究プロジェクトの屋内の耐病性評価実験に関する実験計画書等(甲48の10~11・同14~21[4])に実験従事者として平八重らが記載されているものについて、「植物病理学専門の平八重らが耐病性評価実験を実施した」という事実が導かれる。
第3に、耐病性評価実験の接種の方法について、平八重自身も《評価に用いるイネをどのように準備するのか、栽培・接種環境をどのようにするのか、噴霧するいもち病菌(胞子懸濁液)をどのように準備するのか(胞子の濃度が高すぎると、稲がすぐ枯れてしまい評価できないため、適切な胞子濃度に調整する必要がある)、いもち病菌の胞子懸濁液を噴霧後にイネをどのような条件に置くのかなど、豊富な経験に基づくノウハウが必要となります。》(乙16平八重陳述書8頁(5))と経験に裏打ちされた専門のノウハウの必要性を認めている。のみならず、接種後の発病程度の評価についても、平八重自身、《発病の評価については、どのようなものを病斑とみなすのか、病斑の面積をどのように評価するのかなど、豊富な経験に基づく知識や技術がないと適切におこなうことができません。》(乙16平八重陳述書9頁4)と経験に裏打ちされた専門のノウハウの必要性を認め、証人尋問においても、発病程度の評価について、葉いもちの病斑の写真(甲63)をもとに、《例えば一番左のやつは、これは、接種して、きれいな病班ですよね。で、5日から7日ぐらいの若い病班なんですね。こういった病班は、たくさん胞子を作る、今から病気が広がるときの病斑というふうに言えます。で、真ん中の褐色のやつというのは、もう死に行く病斑なんです、で、右のほうの伝染力が弱となっているのは、これは、ほとんど病斑というよりも、イネのほうが抵抗性反応を発揮してて、褐点が出ています。これは、もう感染は成立していないというふうに考えたほうがいいと思う》(証人平八重22頁)と具体的に説明を披露し、木暮教授に《最終的に感染の有無や程度などを適切に判断するためにはかなりの経験を積むことが必要だと思います。経験を積み習熟していないと病斑を見ただけではそこまでは分からないでしょう。》(甲64木暮意見書(3)8頁8)と言わしめた。すわなち、耐病性評価実験の接種と発病の評価は経験もノウハウもない植物病理学の素人には不可能というほかない。
第4に、屋外ならともかく屋内の研究施設内におけるカビの実験は植物病理学の専門家でないと、分子生物学の研究者も含めカビの素人では困難なことは周知の事実である(原告準備書面(13)6~7頁・同(14)2~4頁。甲64木暮意見書(3)6~7頁4。分子生物学の有名な実験の手引書「Molecular Cloning (Tom Maniatis ら)」にもカビの章はない)。
他方、被告自身も、屋内で遺伝子組換えイネのいもち病抵抗性を適正に検定するためには植物病理学の専門家のノウハウが必要であることを被告が開発し発表した「隔離温室内で行う組換えイネのいもち病抵抗性検定法」という成果情報(甲66)の中で明らかにしている。
以上の通り、カビの実験の特質にかんがみた時、「隔離温室内で行う組換えイネのいもち病抵抗性検定」等の屋内の耐病性評価実験を実施したのは、前記(1)(4~5頁)で明らかにした前任者中島と同様、植物病理学専門の平八重らをおいて考えられない。
(2)、被告の反論
これに対し、被告は屋内の耐病性評価実験を平八重らが実施したことを否認し、その理由として、
「耐病性評価実験は植物病理学のノウハウが必要不可欠だが、本件では川田チームから出向いて教えを受けた」(被告準備書面(11)5頁3)
 旨述べた。
(3)、原告の再反論
しかし、屋内の耐病性評価実験の接種及び発病の評価について、一般論として、平八重は陳述書(乙16)においても証人尋問においても、植物病理学の豊富な経験に基づくノウハウが必要不可欠であることをさんざん強調していながら、いざ本件の屋内の耐病性評価実験に話が及ぶとなるや、手のひらを返したように植物病理学の豊富な経験に基づくノウハウなぞどこかに消し飛び、いとも簡単に、植物病理学の素人に伝授したと主張するが、一体どうしたらそのような伝授が可能なのか、その合理的な説明が全く示されていない。
(4)、小括
以上から、平八重らが屋内で耐病性評価実験を実施したことが肯定される。

5、屋内の平八重らの抗菌活性実験(表①-Ⓑ)

(1)、この場面における問題は、平八重らが抗菌活性実験を実施したかである。この点、植物病理学の専門家である平八重が実施したことは以下の諸事実から肯定できる。
第1に、抗菌活性実験に関する論文(乙17)の共著者に平八重の名前が記載されている。
第2に、前記(2)の第2(5~6頁)に述べた通り、抗菌活性実験に関する実験計画書等(甲48の35等)の実験従事者として中島が記載されているのは「植物病理学専門の中島が抗菌活性実験を実施した」ことを意味する。そうだとすれば、同一研究プロジェクトの抗菌活性実験に関する実験計画書等(甲48の12~13[5])に実験従事者として平八重らが記載されているものについて、「植物病理学専門の平八重らが抗菌活性実験を実施した」という事実が導かれる。
第3に、論文(乙19)中の、真菌(カビ)による抗菌活性実験のやり方を解説した記述(被告が抄訳した部分)のうち「胞子2000個集めるやり方」、「菌糸片の切片の作り方」及び「所定の培養期間の評価」について、平八重は、証人尋問でその具体的なやり方を証言したが(証人平八重20~21頁)、その証言内容からも、木暮教授が《寒天培地を使って菌が胞子を作り易い条件を設定するとか、できた胞子を一定数集める、というような作業は細菌のみを扱う研究者は全くやらないことで、真菌の専門家、それもかなりその真菌に関する深い知識と経験を持った人でないとやれない》(甲64木暮意見書(3)7頁6)と指摘した通り、真菌(カビ)の専門家のみが適切になし得る実験である。
第4に、前記(1)の第4(8頁)に述べた通り、屋内の研究施設内におけるカビの実験は植物病理学の専門家でないと、分子生物学の研究者も含めカビの素人では困難なことは周知の事実であり、カビのいもち病菌の抗菌活性実験を実施したのは、前記(2)(5~6頁)で明らかにした前任者中島と同様、植物病理学専門の平八重らをおいて考えられない。
(2)、被告の反論
これに対し、被告は次の通り反論をする。
①.平八重らは川田氏に実験材料を提供し、実験方法を指導しただけで、実験は実施していない(被告準備書面(6)2~3頁)。
 上記①を大前提にして、さらに以下の通り反論する。
②.論文(乙17)の共著者とされた理由は、いもち病菌の提供には高度な知識や技術、ノウハウが必要であることから、大いなる貢献をした者として共著者とされた(被告準備書面(11)7頁エ)
③.抗菌活性実験はマイクロプレートリーダーを使った実験で、分子生物学分野の一般的な実験であり、植物病理学の専門知識・ノウハウは不要である(被告準備書面(11)2~5頁2)。
④.平八重らの専門は植物の耐病性と病原菌の病原性であって、抗菌活性は専門ではない(被告準備書面(10)5頁(4))。
(3)、原告の再反論
ア、前記②の被告反論(論文〔乙17〕の共著者とされた理由)に対して、
(
)、平八重が論文(乙17)の抗菌活性実験に提供したいもち病菌は、平八重も証人尋問で認めた通り(証人平八重12頁下から2行目~13頁下から5行目)、すべて標準的な菌でしかなく(甲64木暮意見書(3)3頁14~22行目。甲62被告の成果情報2枚目表1)、《その菌が世界で初めて分離したもの、あるいは他の株には見られないような特殊な性質を持っている、あるいは提供者が作りだした特有の性質を示す遺伝的変異体、といった特殊性》(甲64木暮意見書(3)3頁3行目以下)と木暮教授が指摘したような特殊性が認められる菌ではない。
(
)、被告自身も、論文(乙17)の実験以前から、平八重が所属する病害研究室が提供した菌が標準的な菌である事実を次の通り、自白している。
《被告農研機構は、約30系統の標準菌株を選定して保管・維持している。‥‥平成111999)年ころから、北陸農業試験場水田利用部病害研究室(当時)は、川田氏の依頼によって上記標準菌株のうち最も一般的な系統を提供するとともに、菌の培養法を伝えた。平八重氏、園田氏は平成152003)年4月着任依頼、病害研究室の担当者として川田氏のこの依頼に対応した。》(被告準備書面(10)4~5頁4(1)(2))。
(
)、他方、同じ論文(乙17)で病原細菌を提供した畔上耕兒氏は謝辞にとどまっている。共に菌を提供しただけなら、なぜ一方は共著者、他方は謝辞と違う扱いになるのかその合理的説明がつかない。その違いは平八重が抗菌活性実験を実施したこと以外に考えられない。
イ、前記③の被告反論(マイクロプレートリーダーを使った実験)に対して
マイクロプレートリーダーの操作が分子生物学分野で一般的に知られている事実は認める。しかし、問題はマイクロプレートリーダーという実験機器の操作自体ではなく、いもち病菌とディフェンシン蛋白質をどのような条件で接触させてディフェンシン蛋白質の抗菌活性を評価するかという具体的な実験の組み立てにある。これを決めない限り実際の実験を行なうことはできないが、それを具体的に設定するとは《例えば、いもち病菌の濃度を当初どの程度に設定すればよいか、他方、ディフェンシンの濃度をそれに合わせてどの程度に設定するのが適当か、実験が数日に渡る場合には、その間の培養条件の設定、どのような結果が出た時点で実験を終了とするべきかという判断、実験データの整理と統計処理を使ったその判定等々をどのように決めたらよいのか》(甲64木暮意見書(3)3~4頁3)ということであり、それは《単にマイクロプレートリーダの操作が分かる者だからいってできることではありません。そのためには、いもち病菌等の植物病理学の専門知識、植物病理に関する経験に基づくノウハウが必要になります。つまり、抗菌活性実験も植物病理学の専門知識・ノウハウを備えた者が実施することが必要なのです。》(同上)。
ウ、前記④の被告反論(平八重の専門性)に対して、
平八重は証人尋問において、甲59を示して、昭和60年度の学会で抗菌活性実験の発表をした時、この抗菌活性実験を担当したかという質問に対し、担当したと証言した(証人平八重6頁)。それゆえ、抗菌活性はたとえ平八重の専門でないとしても、平八重が研究の中で抗菌活性実験を担当した事実は否定できない。
エ、以上の通り、被告の反論②~④はいずれも成り立たない。それゆえ、反論②~④が成立することに支えられている被告の反論①も成り立たないことが明らかである。
(4)、小括
 以上から、平八重らが屋内で抗菌活性実験を実施したことが肯定される。

6、まとめ
 以上の結果を上記表にまとめると、以下の通りとなる。
       屋内実験(1998年~)
関係者
①.抗菌活性実験
②.耐病性評価実験
1998年~
中島
中島が実施
中島が実施
2003年4月~ 
平八重・園田
平八重らが実施
平八重らが実施
屋外実験(2005~2006年)
関係者
①.抗菌活性実験
②.耐病性評価実験
Ⓒ 
平八重
――――
平八重が実施

7、病害抵抗評価実験に関連した実験

(1)、培養実験
ここで問題となるのは次の予備実験である。すなわち平八重は、菌の提供にあたって、菌を植菌、培養して川田に渡し、さらに、年に2~回、菌を植菌、培養して新しい菌を提供した旨陳述している(乙16平八重陳述書2~3頁(3))。予備実験とはいえ、この培養実験を平八重が実施したことを認めている。そうだとしたら、その記録をつけた実験ノートを作成した筈である。
(2)、平八重の反論
これに対し、平八重は、証人尋問において、前記培養実験を実施したことは認めたものの、その実験の記録はつけていないと反論した(証人平八重28頁)。
(3)、原告の再反論
 しかし、培養実験を実施していながら、その実験記録はつけていないという平八重の証言は、「実験においてどんなことでも記録しておくのが研究者の常識」に反するものであり、実際上も、それでは、どの株をどの程度分譲可能な数に分けて保存しているかという現状を把握しておく必要がある株の保存組織の運営が不可能になり、この点からも記録をつけていないということはあり得ない(同旨。甲64木暮意見書(3)7頁7)。        
以 上


[1]被告が行った、ディフェンシン遺伝子を導入した遺伝子組み換え稲の開発及び栽培の研究プロジェクトのこと(原告準備書面()3頁3行目)。

[2] これらの実験計画書等で耐病性評価実験が実施されたことは甲64木暮意見書(3)4頁4の解説参照。
[3] これらの実験計画書等で抗菌活性実験が実施されたことも甲64木暮意見書(3)4頁4の解説参照。
[4] これらの実験計画書等で耐病性評価実験が実施されたことは同木暮意見書(3)4頁4の解説参照。
[5] これらの実験計画書等で抗菌活性実験が実施されたことも甲64木暮意見書(3)4頁4の解説参照。