2017年11月1日水曜日

【報告】2017.11.1法律上の主張をまとめた原告準備書面(17)を提出

本日、前回9月5日の平八重一之氏の証人尋問の結果を踏まえて、「原告の法律上の主張」をまとめた原告準備書面(17)を作成し、裁判所に提出しました(そのPDFは->こちら)。
(その前編にあたる「原告の事実上の主張」をまとめた原告準備書面(16)の記事は->こちら

合わせて、以下の証拠も提出しました。
証拠説明書(16)

)付言--10年目の節目を迎えて--
 この裁判は、2005年4月、被告が、国策の名の下に、耐性菌問題、交雑問題など様々な安全対策について安全性が確認されていないまま、屋外で遺伝子組換え実験を実施すると発表し、これを知った多くの市民と地元自治体の反対の声に真摯に耳を傾けることもなく、市民に十分納得の行く説明もないまま、5、 遺伝子組換えイネの田植え強行されたことに端を発し、屋外遺伝子組換え実験の中止を求める仮処分裁判の申立がなされた(禁断の科学裁判

 他方、 かねてから情報公開をライフワークとし、わが国の人権保障の歴史にも輝かしい一石を投じたローレンス・レペタさんは(彼の著作「闇を打つ」)、先端科学技術に対する市民のコントロールの重要性という観点からこの事件関心を抱き2007年、耐性菌問題について被告が実施した実験の生データを記録した実験ノートの公開を求めて、開示請求を行ないましたが、被告は「実験ノートは研究者の私物であるから、開示の対象である法人文書に該当しない」として開示を拒否してきました。そのため、レペタさんは、被告のこの処分の取り消しを求めて、この裁判を提訴しました。

  先端科学技術の現場がいかに危ういもので、闇であるかは、福島原発事故私たちの頭に叩き込んでくれました。とはいえ、先端科学技術の現場に身を置いた経験のないレペタさん代理人弁護士にとって、遺伝子組換え技術の実験とその実験ノートの運用の実情を理解し、これを裁判所に伝えることは「言うは易き、行い難し」の至難の技でした。そのため、ずっと、ジグザグの試行錯誤の中を手探りで歩むようなものでしたが、開示請求手続から10年、ようやく私たちはこの問題の核心を掴み、実験ノートの情報公開について、確信をもってあるべき姿を提示することができるのではないかという信念に到達したように思う。かつて、「国敗れて3部あり」名を馳せた行政部の藤山雅行判事、「法律家の仕事は同時代のみならず歴史的な評価にも耐えるものでなければならない」と述べましたが、私たちの心境もこれと同じです。今回提出した2つの書面は歴史の審判、すなわち歴史の中で、様々な人々、市民の批判にさらされ、その無数の関所と試練をくぐり抜けて初めてその真価が明らかにされることを受けて立つ用意のある書面だということです

 しかし、そのような自負に到達した背景には、
先端科学技術の素人である私たちたちをサポートしてくれた数々の良心的な専門家の人たちの大変な努力がある。とりわけ今回の書面完成に間に合わなかった今年4月逝去された生井兵治さん(→彼の意見書)に、の書面を捧げたい

次回期日
日時:11月8日(火)午後1時半
場所:東京地裁8階803号法廷
    民事38部 

地図 ->こちら



  ***************
平成26年(行ウ)第521号 法人文書不開示処分取消請求事件   


原  告  レペタ・ローレンス

被  告  国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構



    原告準備書面 (17)
2017年11 1
東京地方裁判所民事第38部B1係        御中      
原告訴訟代理人 弁護士         晴  英

同      弁護士  柳          


                        
           弁護士  神  山  美 智 子 
      

       弁護士  船          

本書面は、前回期日における平八重一之氏(以下、平八重という)の証人尋問の結果を踏まえて原告の事実上の主張をまとめた原告準備書面(16)の続きであり、原告の法律上の主張をまとめたものである。
 なお、第一次実験ノート裁判(事件番号平成24年(行ワ)第369号)を前訴と略称する。
目 次


第2、法律上の主張

1、はじめに
  本訴における法律問題をめぐる最大の対立は、本研究プロジェクトで作成された、実験の生データを記録したすべての文書いわゆる「実験ノート」が独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下、本法という)2条の「組織共用文書」に該当するか否かである。
  原告は、この法律問題を検討するために、一般論から具体論という順序で、次の諸点を吟味検討する。
①.そもそも本法2条の「組織共用文書」とは何かという法解釈を行なう。
②.その上で、実験ノートの特質を踏まえて、「組織共用文書」の要件の明確化を試みる。
③.実験ノートが「組織共用文書」か否かについて、一般的な考察を行なう。
④.実験ノートが「組織共用文書」か否かについて、本件に即して考察を行なう。

2、本法2条の「組織共用文書」と何か(一般論)(1)、はじめに――「組織共用文書」の解釈の課題――

いかなる文書が組織共用文書に該当するかにつき、本法は個別具体的に詳細な規定(いわゆる北欧型)を設けず、解釈の余地の大きい漠然とした一般条項的な規定(本法2条2項柱書)にとどめた。そのため、その判断基準が曖昧になるおそれがある。そこで、恣意的な判断にならないように、要件の明確化が求められる。これが「組織共用文書」の解釈の第1の課題である。

(2)、判断基準(その1)――指導理念からの帰結――

 通常、一般条項的な条文の解釈にあたり恣意的な判断を防止するために必要なことの第1は、当該法律の指導理念を確認し、当該指導理念の帰結として相応しい解釈(体系的解釈)を導くことである。
 では、本法の指導理念とは何か。それは本法1条で宣言された国民主権と説明責任を果たすという情報公開制度の指導理念である。この指導理念に照らしたとき、職員の職務に対する説明責任を果すため、国民に公開される対象となる組織共用文書とは、専ら作成または取得に関与した職員個人の職務の遂行の便宜のためにのみ利用する「個人的メモ」の類を除外する趣旨であって、この「個人的メモ」の類に該当しない限り当該独立行政法人等の職員により業務上必要なものとして作成された文書はすべて組織共用文書に該当すると解するのが情報公開制度の指導理念からの帰結として相応しいものである(総務省行政管理局編「詳解情報公開法」(以下、詳解と略称)・宇賀克也『新・情報公開法の逐条解説』も同趣旨)。これが判断基準の第1である。

(3)、判断基準(その2)一般的基準――

詳解(24頁)によれば、作成又は取得された文書が「組織共用文書」か否かの判断は次の検討により行うとされる。
作成又は取得された文書が、どのような状態にあれば組織的に用いるものと言えるかについては、
①.文書の作成又は取得の状況(職員個人の便宜のためにのみ作成又は取得するものであるかどうか、直接的又は間接的に当該行政機関の長等の管理監督者の指示等の関与があったものであるかどうか)、
②.当該文書の利用の状況(業務上必要として他の職員又は部外に配付されたものであるかどうか、他の職員がその職務上利用しているものであるかどうか)、
③.保存又は廃棄の状況(専ら当該職員の判断で処理できる性質の文書であるかどうか、組織として管理している職員共用の保存場所で保存されているものであるかどうか)
等を総合的に考慮して実質的な判断を行う。
一般論としてはこの通りだが、問題は、前記(1)で述べたように、この漠然とした一般条項的な条文を、恣意的な判断にならないように、いかにして要件を明確化するかである。そのためには、本訴では、実験ノートの特質を明らかにし、この特質を踏まえて「組織共用文書」の要件の明確化を図る必要がある。以下、この観点から、「組織共用文書」の要件の明確化を吟味検討する。

3、本法2条の「組織共用文書」と何か(実験ノートの特質に即した具体論)
(1)、実験ノートの利用の実態と「業務上必要なものとして利用する頻度」

 実験ノートの利用に関しては、もともと統一的なルールがあった訳ではなく、昨今、大学や独立行政法人などの研究組織でルールを定めるところが増え、利用の仕方も統一されてきたが、かようなルールがない場合或いは本訴被告のようにルールが定められる以前の場合には、各研究者の現場によって利用の仕方におのずと差異があるのは当然である。その差異の1つとして、共同研究者間又は上司と部下の間で実験ノートを見ながら討議する「頻度」がちがう点がある。その理由は、《共同研究者間だけでなく、研究に関する上司に対しても、①の実験データを見せることを想定しています。とりわけ実験直後にその数値などを実験ノートに記入したいわゆる生データが重要です。通常、その生データからその数字をパソコンに打ち込んで図表を作るのが一般的ですが、そこで結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、まず生データの記録を参照するのが普通》(甲6木暮意見書3~4頁)だからであり、つまり、通常は生データを整理したメモやレジメを見ながら討議するが、実験結果に疑問や不合理な点が出てきたような場合に生データが記録された実験ノートを見ながら討議するからである。そこで問題は、実験ノートを見ながら討議するという文書利用の頻度は本法2条の「組織共用文書」の判断に影響を及ぼすかどうかである。結論として、文書利用の頻度は「組織共用文書」の判断に影響を及ぼさない。なぜなら、詳解によれば、「組織共用文書」とは《当該行政機関の組織において、業務上必要なものとして、利用又は保存されている状態のものを意味する》(24頁1~2行目。下線は原告代理人による)。従って、当該文書が「業務上必要なものとして、利用」されている場合はもちろん、たとえ「業務上必要なものとして、利用」されてなくても、当該文書が「業務上必要なものとして、保存」されている限り「組織共用文書」である。従って、当該文書が「業務上必要なものとして、『通常』利用されるのか、それとも『たまに』利用されるのか」といった利用の頻度は組織共用文書の判断にとって無関係だからである。ちなみに、大島正弘氏(以下、大島という)は、証人尋問において、被告代理人から実験ノートを見ながら討議する頻度を尋ねられ、「ひと月に1度あるかないか程度の、さほど多くない状況でした」(証人大島31~32頁)と証言したが、ひと月に1度あろうがなかろうが、実験ノートを見ながら討議していたことに変わりはなく、これをもって実験ノートが「業務上必要なものとして利用されている」かどうかを判断する上で何ら影響を及ぼさない。

(2)、小括
 以上の通り、実験ノートの特質に即して「組織共用文書」の要件を再吟味した結果、当該文書を業務上必要なものとして利用する頻度は「組織共用文書」の判断に影響を及ぼさないことが明らかになった。

4、実験ノートが「組織共用文書」か否か(一般論)(1)、はじめに

前記においては、実験ノートの利用の実態という特質に即して「組織共用文書」の要件を明確化することを心がけた。ここでは、実験ノートが「組織共用文書」か否かを適正に判断するために、実験ノートの特質をどのように踏まえて判断する必要があるかを明らかにする。

(2)、実験ノートの記載内容の複合的性格と「組織共用文書」の判断の対象

ひと口に実験ノートと言っても、そこには大別して次の3つの情報が記載されている(甲6木暮意見書3頁3)。
ⓐ.実験の結果得られた実験の生データ
ⓑ.実験のやり方などの実験条件
ⓒ.研究者個人のアイデア、仮説、失敗した場合の問題点等気がついたこと
 今日の科学技術の研究プロジェクトは個人の設備・資金で実施されるケースは稀で、本件のように組織の設備・資金や公的な資金で実施される場合、その研究プロジェクトで実施された「実験の生データや実験条件(以下、この2つを総称して実験の生データ等という)」の情報は当該組織に帰属し、当該組織の財産である(この点は被告も争わない)。上記ⓐ及びⓑの情報がる。それに対し、たとえ組織の設備・資金や公的な資金で実施された実験であっても、研究者個人のアイデアは本来、当該研究者に帰属する(特許法の発明者概念参照)。上記ⓒの情報がこれにあたる。
さらに、本訴被告は民間組織ではなく、国家組織に準じる公的な組織であるから、本研究プロジェクトで実施された実験の生データ等(上記ⓐ及びⓑ)の情報は公的組織に帰属し、公的性格を有する。これに対し、実験ノートに記録された研究者個人のアイデア等(上記ⓒ)の情報は当該研究者に帰属し、基本的に私的性格のものであり、公的性格を有する上記ⓐ及びⓑの情報とは全く異質である。この点、原告はⓒの情報の私的性格を争ったり否定したことは一度もない(つまりⓒの情報の開示請求を求めていない)。
重要なことは、実験ノートの組織共用性の有無を判断する上で、この両者の性格の違いを明確に自覚しておくことである。つまり、実験ノートが「組織共用文書」であるか否かを問う際に、上記ⓒの情報は不開示であることが大前提となっており、それゆえ、上記ⓒの情報は実験ノートの組織共用性の有無の判断に全く影響を及ぼさない。
以上の通り、元来、実験ノートの記載内容は上記ⓐ及びⓑの組織的性格(本件ではさらに公的性格も帯びる)と上記ⓒの私的性格の異質な部分から構成されており、実験ノートの組織共用性の有無の判断にとって検討が必要な対象とは上記ⓐ及びⓑの情報が記載されている部分である。

(3)、実験の生データ等と実験ノートの関係

 実験ノートの組織共用性の有無を判断するにあたっては、実験ノートの内容である実験の生データ等と実験ノートとの関係について、明確に認識しておく必要がある。
実験の生データ等と実験ノートとの関係は、情報と当該情報の媒体である文書の関係のことであるが、これは無体物である言語や映画の著作物とそれらの媒体である有体物の本やDVDとの関係と同じである。
 重要なことは、情報とその媒体である文書とは不可分一体ともいうべき運命共同体の関係にあることである。それは無体物(言語や映画の著作物)と有体物(本やDVD)との関係を考えれば明瞭である。無体物(言語や映画の著作物)の無断利用を防ぐためには、無体物の媒体である有体物(本やDVD)が無断で自由に複製されるのを防ぐ必要がある。これと同様に、情報が組織に帰属し、組織の財産である場合、当該情報の媒体である文書も組織に帰属し、組織の財産として扱われる必要がある。いくら情報が組織に帰属し、組織の財産であると承認しても、当該情報の媒体である文書が組織に帰属し、組織の財産としてふさわしい現実的な保存・管理がなされていない限り、そこに収められた情報の保護も絵に描いた餅に終わるからである。従って、情報が組織に帰属し、組織の財産であると承認する以上、それは特段の事情がない限り、当該情報の媒体である文書もまた組織に帰属し、組織の財産であることを意味する。
以上から、本研究プロジェクトの実験の生データ等が被告に帰属し、被告の財産であることを承認する以上、それは特段の事情がない限り、実験の生データ等を記録した媒体である実験ノートも被告に帰属し、被告の財産であることを意味する。ここから、次のことが導かれる。
本研究プロジェクトの実験の生データ等が被告に帰属し、被告の財産である以上、被告が当該実験の生データを善管注意義務をもって保存する義務を負うのは当然である。それゆえ、
ア、本研究プロジェクトのメンバー・関係者も当該実験の生データを善管注意義務をもって保存する義務を負う。
イ、当該実験の生データは実験ノートという媒体に記録されている以上、上記保存義務は被告及び本研究プロジェクトのメンバー・関係者が当該実験の生データが記録されている実験ノートを善管注意義務をもって保存する義務として具体化される(甲6木暮意見書4~5頁)。
また、本研究プロジェクトの実験の生データ等が被告に帰属し、被告の財産であることを承認する以上、上司から実験の生データ等が記録された実験ノートの閲覧要求を拒むことはできない。それを拒むことは、結局のところ、実験の生データ等が被告の財産であることを否定するにひとしいことだからである。
以上の通り、情報(実験の生データ等)と文書(実験ノート)の運命共同体の関係を明確に自覚して、実験ノートの組織共用性の有無を判断する必要がある。

(4)、共同研究における実験ノートの利用形態

 今日、科学技術の研究プロジェクトの殆ど全ては共同研究という形態で実施されている。共同研究においては、日常的に、共同研究者間或いは研究指導者と研究者の間で討議・検討が行なわれるが、実験の生データ等はその討議・検討にとって不可欠の共有情報として活用される。とりわり次のような場合には実験ノートを直接見ながら、言い換えれば実験ノートに記録された生データを直接見ながら討議・検討することが不可欠である。
①.或る実験結果についてそれまでの実験データと矛盾した場合
②.或る実験結果が想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない特異な現象が発生した場合
③.報告者の説明が不十分で納得することができない場合
(甲64木暮意見書(3)5頁6行目以下)

(5)、実験ノートの組織共用性の有無について、他の組織・研究者の評価

ア、日本の科学技術の研究を牽引する以下の研究組織、研究者はいずれも実験ノートが「組織共用文書」であることを認めている。
①.独立行政法人理化学研究所(以下、理研と略称)
被告と同様の遺伝子の組換えに関する実験と研究をおこなっていて、「STAP細胞」の実験ノートの作成・管理をめぐり話題となった理研に対し、原告代理人は2014年月、遺伝子の組換えに関する実験の過程で作成された実験ノートの開示請求をしたところ、理研は月19日付で不開示決定の処分を行い(甲21)、その不開示の理由の中で、当該の実験の過程で作成された実験ノートは理研の法人文書であることを明らかにした。 
②.東北大学大学院農学研究科の西尾剛教授の研究室(以下、西尾研と略称)
被告より提出された西尾剛教授の陳述書(甲18)によれば、西尾研で行う研究で作成される実験ノートは「組織共用文書」であることを前提にしている。なぜなら、西尾研が実験ノートを非公開にした理由を「競争関係にあり、知的財産権の観点から」(つまり法5条4号ホの不公開事由「調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ」としているからである(2枚目のラスト)。
③.京都大学生命科学研究科
本研究プロジェクトと同一分野である生命科学の研究開発において、日本をリードする研究機関の1つである京都大学は、大学の職員(吉村成弘生命科学研究科准教授と粂田昌宏同助教らの研究グループ)が作成した実験データを記録した実験ノート(以下、京大実験ノートと略称)の開示請求(甲32の3)に対し、2015年4月、京大実験ノートが「組織共用文書」であることを認め、なおかつこれを開示する旨の決定をした(甲32の2「法人文書開示決定通知書」)。
その際、上記の大学職員(吉村成弘生命科学研究科准教授)は、《発表した研究論文については、その根拠データは誰にもオープンにされるのが当然であり》(甲32の1「法人文書開示決定通知書の送付及び今後の事務手続きについて」の3)、という立場を表明した。すなわち発表した研究論文の根拠となる実験データが記録された文書の情報公開については不開示事由は存在しないという立場を明らかにした(原告準備書面(3)5頁第4)。
④.山中伸弥教授の発言(論文疑惑問題についての2014年4月の記者会見)
 2014年4月28日、山中教授は14年前の論文の疑惑晴らすため段ボール5箱分の実験ノートを提出した調査の結果を発表する中で、共同研究者の実験ノートが保存されていなかったとして「心より反省し、おわび申し上げます」と次のとおり謝罪した(甲20NHK「かぶん」ブログ)。
《今回の実験は、何回もやっていて結果には自信を持っているが、自分自身の実験ノートは保存していたが、共同研究者のデータは全く保存しておらず、指摘された実験に関するデータが示せない状況だ。実験は、中国からの留学生と医学部の学生に手伝ってもらったが、責任者はあくまでも私で、今から思えばすべてのノートを私が持っているべきだった。また、当時の自分の実験ノートは、日付に年が書いていないし、記載も決して十分とは言えず、昔の自分が恥ずかしく思う。今、日本の研究の信頼が揺らいでいるのは確かで、私自身を含めてノートをしっかり取って、いつでも示せるようにするのが信頼回復の唯一の方法であり、 それを私の研究所でも非常に強く指導している。そうしたなかで、今回、私自身の論文に関するデータを出せないというのは、研究所の人たちに対しても本当に申し訳ない》(下線は原告代理人による)
ここから、次のことが明らかである。
ⓐ.実験ノートはこれを作成した「中国からの留学生と医学部の学生」の私物ではなく、本来の実験ノートの管理のあり方として、責任者(山中教授)がこれを保管すべきであったこと。
ⓑ.実験ノートは決済文書の起案前の職員の個人的な検討段階の文書のように起案が済めば用済みとなるものとは異なり、当該研究およびその関連の研究が継続する間、半永久的に保存するものである。それゆえ、実験ノートの保管として、論文作成ののち短期間で廃棄するものではなく、14年前の論文作成に用いた実験ノートも保管していること(以上、原告準備書面(1)35~36頁)。

⑤.奈良先端科学技術大 佐藤匠徳教授
 奈良先端科学技術大学院大学の佐藤匠徳教授(専攻心血管系の分子生物学、生物システムのゆらぎ緩衝制御学、組織再生工学)は、朝日新聞のweb ronzaに「実験ノートの基本:日付と生データは必須、実験室外持ち出し禁止」と題するエッセイ(甲18)を寄せ、その中で、実験ノートの性質、目的、管理について、次の通り述べた。
《それ(原告代理人注:実験ノート)は中高生にとってのノートとはまったく性質の異なるものである。》(1枚目下から10行目以下)
《佐藤ラボマニュアル「実験ノートの記録・管理の仕方」の1行目には、「実験ノートは、研究を行う上で、最も大事な『命』である」と書いてある。その次に「実験ノートの基本的な考え方は、何時、何のための、何の実験を、誰が、どういう方法でおこない、どういう結果が出て、その結果をもとにどういった結論を導きだし、どういう考察をし、それをもとに次にどういう実験を行うことにしたか、ということが、実験をおこなった本人の説明無しに、実験ノートを関係者外の第三者が見れば、すべて明確に理解できることである」と明記されている。》(1枚目下から12行目以下)
《・ 実験ノートは実験をしたその日のうちに
その日行った実験は、終えたところまで、全て、その日のうちに実験ノートに記録してから帰宅する。実際に行った実験を、次の日や別の日に記録すると、間違いがおこる可能性が出てくる。また、万が一、帰宅途中に事故にあったりした場合、どういった実験がどういった状態で進行しているのか、別の者にわからなくなるので、その実験を他の者が引き継ぐことが困難になる。》(2枚目下から13行目以下)
《・ 実験ノートの研究室外への持ち出し禁止
 実験ノートの研究室外への持ち出しは、禁止だ。例えば、実験データを家にもって帰って見直そうと実験ノートを持ち出して、帰宅途中で電車やカフェに置き忘れたり、盗難や事故などにあったりした場合、その実験ノートに記録されているものが全て失われることになるからだ。》(2枚目下から7行目以下)
《実験ノートの記録や管理の仕方には、組織や研究室によって少しずつ違いはあるが、基本的なところは同じであると、筆者は理解している。》(3枚目7行目)
 以上の考え方の根底にあるのは次のことである。
《一般の方々が納めている税金のおかげで研究が出来ていることをしっかり理解し、高い倫理観と責任感をもって研究を行うのは、研究者として当然のことと筆者は考えている。》(3枚目下から3行目以下)
ⓐ.実験ノートの基本的な考え方とは、実験の方法、結果などを実験をおこなった本人の説明無しに、実験ノートを関係者外の第三者が見れば、すべて明確に理解できるように記録するものであること。
ⓑ.実験ノートが私物ではなく、組織としての利用を予定していることは、帰宅途中に事故にあう場合の実験引継ぎを想定した実験ノート作成の仕方や実験ノートの研究室外への持ち出し禁止からも明らかであること。
ⓒ.このような基本的なことは、どの研究室でも共通であること。(以上、原告準備書面(1)31~33頁)

⑥.カルフォルニア大 中村修二教授
 2014年度ノーベル物理学賞受賞した中村修二米カリフォルニア大教授は、「(原告代理人注:会社)をやめるときに研究用ノートブック全部を置いてきて、全て日亜化学が持っている」(甲19。4頁左段)と述べ、実験ノートの廃棄の自由がないことはもちろんのこと、持ち出しの自由もないことも認めている(以上、原告準備書面(1)20~21頁)。

イ、前記①~⑥の各実験ノートと本件の実験ノートとの対比
 両者は単に《一般的・抽象的には共通する点がある》(前訴の二審判決6頁(9))にとどまらず、以下の基本的な点で共通することが明らかであり、仮に明らかでなくてもこれらの事実が窺える。
(1)、研究対象
 生命科学、遺伝子組み換え技術の分野の研究開発の点で同一であること。
(2)、文書の作成の状況
①.作成目的が職員個人の研究ではなく、組織の共同研究を円滑に進めるためであること。
②.記録される情報(実験の生データ)の性格が当該「法人に帰属」すること。
(3)、文書の利用の状況
①.利用の実態が上司や共同研究者間で利用すること。
②.上司の閲覧要求に拒絶できないこと。
(4)、文書保存又は廃棄の状況
①.実験データの保存義務・善管注意義務があること。
②.外部への持ち出しが禁止されていること。
③.勝手に廃棄できないこと。

ウ、小括
従って、前記①~⑥の各実験ノートが組織共用性を備えていることは、本件実験ノートの組織共用性の有無の判断にとって、極めて有力な証拠となる。

5、実験ノートが「組織共用文書」か否か(本件への適用1:大島作成の実験ノート)(1)、「組織共用文書」判断のための3つの要件の検討

①.文書の作成の状況

ア、本研究プロジェクトの性格
本研究プロジェクトが職員個人のプライベートな研究ではなく、「組織」の「共同」研究であることは被告も争わない。
イ、実験ノート作成の目的
被告も認める通り、単独の研究者ではなく、共同研究者たちの手で遂行されるのが現代科学の一般的な研究スタイルであり、本研究プロジェクトも同様である。それゆえ、その実験データを記録する実験ノートの作成目的は「職員個人の研究のためではなく、あくまでも組織の共同研究を円滑に進めるため」のものにほかならない。この意味で、共同研究で作成される実験ノートは「組織の職員により業務上必要なものとして作成されたもの」に該当することは明らかである。
ウ、実験の生データ等の帰属
実験の生データ等が職員個人ではなく、当該「法人に帰属」することは被告も争わない。従って、本研究プロジェクトにおける実験の生データ等も被告に帰属する。
エ、実験ノートの帰属
 前記4、(3)(8~10頁)で述べた通り、実験の生データ等が職員個人ではなく、当該「法人に帰属」する以上、生データを記録した実験ノートが当該「法人に帰属」することになるのは当然である。
従って、本研究プロジェクトで作成された実験ノートも被告に帰属すると解すべきである。
オ、小括
 特段の事情がない限り、大島作成の実験ノートもこれと同様に考えることができる。

②.文書の利用の状況

ア、共同研究者間
()、大島自身、陳述書(乙10)でも、証人尋問でも、共同研究者間において実験ノートの利用を次の通り、認めている。
ⓐ.陳述書(乙10)
《研究室内部で報告や議論をする際には、データを見やすい形に整理した図表等を作成させ、それに基づいて打ち合わせを行っておりました。その過程で実験条件等を更に詳しく知りたいときは口頭での補足を求めたり、記録の一部を見ることはしました》(乙10大島陳述書5頁(3)。下線は原告代理人による)。
ⓑ.証人尋問
 大島陳述書(乙10)の上記内容について、大島の証人尋問で確認したところ、
《そこに書いてあることに間違いはありません》(証人大島17頁下から2行目~18頁4行目)
と証言した。それに続けて、「『記録の一部を見る』というのは、実験条件や実験の生データが記録されている文書を見るということではないか」という質問に対し、
《そういう場合にいろいろな資料を見ることは当然ございます》(証人大島18頁16~17行目)
と証言したので、さらに「実験条件や実験の生データが記録されている文書を見ることもあるか」という質問に対し、
《はい》(証人大島18頁下から7行目)
と証言した。
「共同研究の過程で、実験結果が、それまでの実験データと矛盾したり、想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない現象が起きることはあるのか」という質問に対し、
《研究ですから恐らくそういったようなことは、まま起こることです》(証人大島12頁4行目)
と証言し、続いて、「その場合、その原因を考え、対策を立てる必要があるのではないか」という質問に対し、
《当然です》(同上同頁7行目)
と証言したので、さらに、「そこで、そのために、実際の実験条件や実験の生データを直接見ながら、その実験を担当した者に説明を求めたり、共同研究者間で討議することがあるのではないか」という質問に対し、
《場合によってはそういうことももちろんあったかと思います》(同上同頁11行目)
と証言した。これに続いて、「実験直後ではなく、少し後になってから実験条件や実験の生データを直接見ないと分からない場合には、それらを記録してある実験ノートを見ることがあるのではないか」という質問に対し、次の通り証言した。
《特に生データを見る必要がない場合には見ません。必要があれば見たかもしれません》(証人大島13頁1~2行目)
 また、正規の職員と非正規の契約職員との区別に関連して、「正規の職員について、実験条件や実験の生データを直接見ながら、大島が説明を求めたり討議することがあるのではないか」という質問に対し、次の通り証言した。
《生データを見せていただいて議論することはあります》(証人大島14頁下から7行目)
 後記()に述べる前訴の川田元滋氏(以下、川田氏という)の証人尋問の問答(「同じ研究室で、共同研究のスタッフ同士で実験ノートを見せ合うか」という質問に対し、それを認める証言をした)を読み上げ、「川田のこの証言は、大島研グループでも同様のことがあったのではないか」という質問に対し、
《それは同じ部屋にいますから、あったと思います》(証人大島18頁下から6行目~19頁10行目)
と証言した。
 後記()に述べる木暮教授の意見書(甲6)の記述(結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、実際に生データが記録された文書を直接参照する)を読み上げ、「大島研グループでも同様のことがあり得ますか」という質問に対し、
《それは、議論の素材になるデータがなければ議論そのものができませんから、そういったものを見せていただくことは当然あり得ます》(証人大島21頁5~6行目
と証言した。
()、前訴の川田証人尋問
同様に、川田も、前訴の証人尋問でこれを肯定した。すなわち、
「共同研究者同士で、生データを記録した実験ノートを見せ合うことはあるのか?」という裁判官の質問に対し、
《あったかと思います。なぜかというとこういう実験がうまくいかないんですがという、その技術的な相談をするときに、そういうやり取りは実際あると思います。》(甲16証人川田22頁下から7~4行目)
と証言し、さらに、「あなたのほうから実験スタッフに、スタッフの方が自らデータとかを示さない場合に、こういうデータはどうなっているかということで、示してもらうこともあり得るのか」という裁判官の質問に対し、
《もちろんあり得ます》(甲16証人川田23頁)
と証言した。
()、研究者一般の見解
一般にもこれが肯定されている。
《通常、その生データからその数字をパソコンに打ち込んで図表を作るのが一般的ですが、そこで結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、まず生データの記録を参照するのが普通です。経験を持つ上司が生データを実際に見ることにより間違いを発見したり、そもそもデータが信頼できるものかどうかを判定することが可能になるからです。》(甲6木暮意見書4頁1~6行目)
《川田氏の研究グループにもテクニシャンがいたことは、陳述書に「1999年から、・・・4名(5年間で述べ10名)の重点研究支援員が雇用され、このうちの一部の者を指導して研究を進めさせました」(2頁2())と書いてあることから明らかです。甲19号証の書面(1~2頁)に、重点研究支援員の氏名と専門と派遣期間が書いてあります。この重点研究支援員とはテクニシャンのことです。近年の大型プロジェクトではその構成員の何割かがテクニシャンであることが普通なので、人数構成からも妥当でしょう。したがって、彼らが作成した実験ノートについて、川田氏も当然、私が行ったような活用をおこなっていたと推察します。テクニシャンの彼らが作成した実験ノートについて、各研究者間で共同使用していたということもありませんというのはあり得ないのです。》(甲7木暮意見書(2) 7頁ラスト)
《研究プロジェクトのメンバー同士、研究指導者とメンバー間で共同研究の報告・検討をする際、一番大事なのは、実験条件やデータを記録した実験ノートやパソコンを前に置きながら、そのデータが適切に得られたものなのか、そのデータをどう解釈しうるのか、そもそも信頼できるものなのか、問題点があるとすればどこにあるのか、次に何を行うべきか、データの表記法はどうすべきか、などについて様々な議論を戦わせることです。このとき、実験条件やデータを口頭のやりとりだけで行うということは考えられません。とくに、次のような場合、実験ノートに記録された生データを見ながら議論することが不可欠です。
①.或る実験結果についてそれまでの実験データと矛盾した場合
②.或る実験結果が想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない特異な現象が発生した場合
③.報告者の説明が不十分で納得することができない場合
 このような場合、経験を持つ上司や共同研究者が実験ノートに記録された生データを実際に見る(その場合、(1)、実験ノートを直接見るやりかたと(2)、実験ノートの該当箇所を複写したコピーを渡して見るやり方があります)ことにより間違いを発見したり、そもそもデータが信頼できるものかどうかを判定することも可能になるからです。共同研究者の間では、生データを実際に見たいと言われたら実験ノートを見せて相手の知見を得たり、意見を求める作業もします。》(甲64木暮意見書(3)5頁6~25行目)

イ、研究指導者と研究者の間
大島自身は言及していないが、以下の証言の通り、一般の研究ではこの場合でも実験ノートの利用が認められる。従って、大島作成の実験ノートもこれに準じて考えることができる。
《実験結果に疑問や不合理な点が出てきた場合、経験を持つ上司が生データを実際に見ることにより間違いを発見したり、そもそもデータが信頼できるものかどうかを判定することが可能になるから》(甲6木暮意見書3頁下から9行目~4頁1行目)

ウ、上司からの閲覧要求
()、前記(3)(8~10頁)で述べた通り、本研究プロジェクトの実験の生データ等が当該組織(被告)に帰属し、公的性格を有する以上、その生データ等が記録された実験ノートに対して、上司からの閲覧要求を拒むことはできない。
()、大島の証人尋問
 上司からの閲覧要求を拒否できないかと質問されたのに対し、大島は次の通り、上司の閲覧要求は職員の私物を閲覧するという職務外の要求ではなく、あくまでも業務上必要なものとしての職務行為であることを認めた上で、拒否できないと証言した。
《上司が業務として発出した業務命令には、それは当然ながら従うべきです》(証人大島29頁下から4~3行目)
()、前訴の一審判決
前訴の一審判決も以下の通り、上司からの閲覧要求を拒否できないことを認めた。
「上司から実験ノート等を見せるように言われれば、これを拒否することはできない」(甲5同判決49頁イ()2~3行目)

③.文書保存又は廃棄の状況

ア、実験ノートの保存義務
()、前記(3)(8~10頁)で述べた通り、被告及び本研究プロジェクトのメンバー・関係者は当該実験の生データが記録されている実験ノートを保存する義務を負う。
()、研究者一般の見解
 一般にも実験ノートの保存義務が肯定されていることは、前記4、(5)(11~12頁)で述べた、2014年4月、14年前の論文の疑惑問題に関する記者会見で、山中伸弥教授は実験ノートの保存について以下の通り発言した。 
《自分自身の実験ノートは保存していたが、共同研究者のデータは全く保存しておらず、指摘された実験に関するデータが示せない状況だ。実験は、中国からの留学生と医学部の学生に手伝ってもらったが、責任者はあくまでも私で、今から思えばすべてのノートを私が持っているべきだった。》(甲20。下線は原告代理人による)
大島も証人尋問で、「自分の実験ノートは15年前のものも保存しているか」という質問に対し、《私が保存しております》(証人大島31頁7行目)と証言をした。

イ、組織外の人に自由に見せてよいか
()、前記で述べた通り、被告及び本研究プロジェクトのメンバー・関係者は当該実験の生データが記録されている実験ノートを保存する義務を負う以上、実験ノートを組織外の人に自由に見せることは禁じられる。
()、また、実験ノートを外部に見せるというのは実験ノートに記録された実験の生データ等を見せることだから、前記(3)(8~10頁)で述べた通り、本研究プロジェクトのメンバー・関係者は当該実験の生データを善管注意義務をもって保存する義務を負うから、この意味でも、組織外の人に自由に見せることは禁じられる。

ウ、外部への自由な持ち出しの可否
 前記と同様、本研究プロジェクトのメンバー・関係者は実験の生データ等及びこれを記録した実験ノートを善管注意義務をもって保存する義務を負う以上、外部への自由な持ち出しも禁じられる。

エ、随時、自由な廃棄の可否
()、前記と同様、本研究プロジェクトのメンバー・関係者は実験の生データ等及びこれを記録した実験ノートを善管注意義務をもって保存する義務を負う以上、随時、自由に廃棄することも禁じられる。
()、大島の証人尋問
「共同研究の過程で、実験が失敗したり、実験結果に矛盾や想定外の結果が出た場合、原因を考え対策を立てるために実験の生データ等が記録された文書を見ながら検討することがあり得るという大島証言について、実験を担当した人が実験ノートを勝手に廃棄してしまうと、後から実験の生データ等が記録された実験ノートが見れなくなって、困るのではないか」という質問に対し、大島は、
《ある実験が完全に終わり、一点の疑いもなく終わった後、それはもう必要がなくなったと判断すればメモも含めて、あるいは実験ノートも廃棄することはあり得ると思います》(証人大島21頁下から2行目~22頁1行目)
さらに、「研究がまだ終わらない段階で、実験ノートを勝手に廃棄(後から、どういう情報があるのか分からなくなるようにしてしまうという意味)、それは》してしまうのは困るのではないか」という質問に対し、
《それは困ると思います。実験が続いていれば困ると思います》(同上同頁15行目)
さらに、「研究が途中の場合、共同研究者は自分の実験結果や実験条件を記録した実験ノートを勝手に廃棄することは自由にできないか」という質問に対し、
《必要があれば残すべきだと考えます》(同上同頁下から3行目)
続けて「その場合の必要とはどういう場合か」という再質問に対し、
《研究が継続しているということです》(同上同頁下から1行目)
さらに、実験の生データについて、「実験データを勝手に廃棄したり、勝手に公開することは許さないと思うか」という質問に対し、
《実験がまだ終わっていない状況で、それを一存で廃棄するというのはやはりいかがなものかと思います》(証人大島29頁16~17行目)
と証言した。つまり、大島によっても、実験ノートは、研究が継続している間は随時、自由に廃棄することは許されないものである。

オ、スタッフの異動と実験ノートの引継ぎ
()、前訴の矢頭証人尋問
この問題について、大島自身は証人尋問で明確な答弁を避けたが(証人大島23~25頁)、矢頭治氏(以下、矢頭という)は前訴の証人尋問で、
「共同研究の途中で、研究員が替わる、交替するとき、従来の生のデータを記録したものはどうなるのか」という質問に対し、
《研究課題が継続する場合には、引き継がれますと思います。》(甲17証人矢頭証人23頁)
続けて、「、私がお伺いしたのは、人が替わると、研究員が替わるということで、研究を持ったまま部署が変わるということではないことをお伺いしたいのですが」という再質問に対し、
《その場合には、その研究課題に限ってデータは引き継がれると思います。そうしないと研究は継続できません。》(甲17証人矢頭23~24頁)
と証言した。大島作成の実験ノートもこれに準じて考えることができる。

(2)、小括

 以上の検討から、本研究プロジェクトで大島が作成した実験ノートが「組織共用文書」に該当することは明らかである。

6、実験ノートが「組織共用文書」か否か(本件への適用2:平八重・園田作成の実験ノート)(1)、「組織共用文書」判断のための3つの要件の検討

 平八重らが作成した実験ノートの作成・利用・保存の状況は、基本的にの大島作成の実験ノートの場合と同様である。その上で、ここでは、文書の利用の状況において、さらに、次の3つの事情が認められる。

①.屋内実験
病害研究室に所属し、本研究プロジェクトの屋内実験に参加したメンバーは少なくとも室長の平八重と園田亮氏(以下、園田という)の2名である(被告も争いがない)。原告準備書面(16)で明らかにした通り、両名は上記屋内実験で抗菌活性実験及び耐病性評価実験を実施し、その実験データ等を記録した実験ノートを作成した。従って、同一の研究室に所属した両名が本研究プロジェクトの抗菌活性実験・耐病性評価実験に関する討議・検討をする中で、次のような場面が発生した場合、
(a).或る実験結果についてそれまでの実験データと矛盾した場合
(b)
.或る実験結果が想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない特異な現象が発生した場合
(c)
.報告者の説明が不十分で納得することができない場合
前記実験ノートを見ながら、或いは相手に見せながら討議したことは、前記5、(1)(17~21頁)で大島も川田も認めているのと同様、容易に推測される。

②.屋外実験
病害抵抗性研究チームに所属し、本研究プロジェクトの屋外実験に参加したメンバーは室長の平八重、芦澤武人氏及び高橋真実氏の3名である(甲67被告が新潟県に提出した文書6頁)。被告も自認する通り、平八重は上記屋外実験で耐病性評価実験を実施し、その実験データ等を記録した実験ノートを作成した。そうだとしたら、平八重と同じ研究チームに所属する2名も、この実験を実施し、実験ノートを作成したことが明らかである。従って、同一の研究チームに所属したこの3名が本研究プロジェクトの耐病性評価実験に関する討議・検討をする中で、次のような場面が発生した場合、
(a).或る実験結果についてそれまでの実験データと矛盾した場合
(b)
.或る実験結果が想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない特異な現象が発生した場合
(c)
.報告者の説明が不十分で納得することができない場合
前記実験ノートを見ながら、或いは相手に見せながら討議したことは、前記5、(1)(17~21頁)で大島も川田も認めているのと同様、容易に推測される。

③.川田の研究チーム主導の本研究プロジェクトの性格
平八重は、本研究プロジェクトの抗菌活性実験・耐病性評価実験は彼自身の研究のためではなく、川田の稲組換研究チームからの協力要請に応じて参加した旨を陳述している(乙16平八重陳述書8頁()など)。そうだとすれば、これらの実験の生データは川田の研究チームにとって必要不可欠なものであり、本研究プロジェクトを進める中で、川田らの研究チームと平八重ら植物病理学の専門家たちとの間で、抗菌活性実験・耐病性評価実験に関する討議・検討をする中で、次のような場面が発生した場合、
(a).或る実験結果についてそれまでの実験データと矛盾した場合
(b)
.或る実験結果が想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない特異な現象が発生した場合
(c)
.報告者の説明が不十分で納得することができない場合
前記実験ノートを見ながら、或いは相手に見せながら討議したことは、前記5、(1)(17~21頁)で大島も川田も認めているのと同様、容易に推測される。

(2)、小括

 以上の検討から、本研究プロジェクトで平八重・園田が作成した実験ノートが「組織共用文書」に該当することは明らかである。

第3、結語
 
  以上から、本研究プロジェクトで大島、平八重及び園田作成された実験ノートは「組織共用文書」に該当することが明らかである。

以 上

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