2020年9月3日木曜日

【お知らせ】2019年10月から2020年2月21日までの裁判の報告

昨年秋の報告が遅れているうちに、私たちが15年前に危惧し、イエローカードを出していたたディフェンシン耐性菌のウイルス版とも言うべき、コロナ騒ぎが始まり、さらに報告が遅れてしまい、失礼しました。
先日、裁判の準備がひと区切りつきましたので、この間の流れを報告します。
以下は、報告1で、 2019年10月から2020年2月21日までの裁判の報告。

1、 第1回の弁論期日は裁判所により取り消され、1月15日に変更。
 理由は単純で、被告がペラ1枚の答弁書(→こちら)しか出さず、なおかつ当日欠席すると連絡してきたので、裁判所が(こんな無意味な弁論をしてもしょうがないと)弁論期日を取り消し、被告に実質的な答弁をしなさいと再度、日程を入れたからです。

2、2019年12月4日、被告の実質的答弁である準備書面(1)(→こちら)と書証(乙1~9号証)(証拠説明書は→こちら)が出ました。

3、2020年1月15日、第一回弁論。次回までに、原告が被告準備書面(1)に対する反論を準備。

4、2020年2月21日、 被告準備書面(1)に対する反論として、以下の原告準備書面(1)(PDFは->こちら)と書証(甲5~25号証)を提出(その証拠説明書は末尾に。PDFはー>こちら)。

         *************** 

令和元年(行ウ)第424号 法人文書不開示処分取消請求事件     
原  告  大庭 有二
被  告  国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

原告準備書面 (1)
2020年 2月21日
 東京地方裁判所民事第3部A1係  御中

原告訴訟代理人 弁護士  古 本  晴 英

同        弁護士  柳原 敏夫

                          同       弁護士  神 山  美智子

同       弁護士  船  江   理  佳

 本書面は原告主張の骨格を述べたものであり、今後、必要に応じて補充する予定である。
なお念のため、冒頭で、本訴の原告書面で使用する「実験ノート」を定義しておく(先行の類似訴訟以来、一貫して同一の定義で用いている)。実験ノートとは「実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート、ラボノート、ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験により得られた生データ(raw data)及び実験条件を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)」(訴状別紙請求文書目録1参照)という意味である。
目  次

そもそも類似訴訟原告のレペタ・ローレンス氏(以下、類似訴訟原告という)及び原告(以上の2名を総称して以下、原告らという)が2007年以来、被告に対しくり返し開示請求を行なってきた最大の動機は、被告が1998年から行ったディフェンシン遺伝子を導入した遺伝子組み換えイネ(稲)の開発及び栽培の研究プロジェクト(以下、本研究プロジェクトという)の中で発生するディフェンシン耐性菌問題(以下、本件耐性菌問題という)を懸念したからである。すなわち、
もともと本研究プロジェクトは、遺伝子組換え技術を使って、ディフェンシンという抗菌タンパク質をイネに常時作らせ、それによって複数の病気に負けない強いイネつまり耐病性イネに改造しようというものである(甲5記者発表資料参照)。
ところが、遺伝子組換えイネに抗菌タンパク質(ディフェンシン)を常時作らせる結果、ディフェンシンでも死なない耐性菌が出現し、このディフェンシン耐性菌が従来の抗生物質・農薬の耐性菌とくらべ桁違いの危険性を持つものであること(ディフェンシンはヒトをはじめ沢山の生物が生体防御のために作っているため、ディフェンシン耐性菌がディフェンシンによる生体防御を無効にし、人類の健康被害と地球環境に深刻な事態をもたらす恐れがあること)が耐性菌の権威の研究者たちやNatureから指摘された(甲6順天堂大学教授〔当時〕平松啓一氏の意見書。甲7NatureNewsオンライン版。その桁違いの危険性を指摘した2006年作成の木暮一啓東京大学教授の意見書(2)6頁〔別紙1〕)。
しかも、本研究プロジェクトのリーダーである川田元滋氏自身もディフェンシン耐性菌が出現することを認識していて、その出現頻度について、抗生物質と農薬に対する耐性菌との比較解析研究を進めていると明言していた(乙1。233頁左段34~36行目)。
しかし、2005年、住民から本研究プロジェクトの野外実験の中止を求める裁判(以下、イネ裁判という)が起こされると、処分庁(本訴被告)はイネ裁判の中で態度を一転させ、ディフェンシン耐性菌の出現の余地は科学的にないと全面的に開き直った(別紙2.2005年6月28日付答弁書12頁)。しかし、実際には、本研究プロジェクトの中でディフェンシン耐性菌に関する様々な実験を行なっていたのであり(耐性菌問題は耐病性作物開発の最大の課題であるから、こうした実験は普通のことにすぎない)、そのデータを実験ノートに記録していたのである。
従って、人類の健康被害と地球環境に深刻な事態をもたらす恐れがあるディフェンシン耐性菌の出現に関する実験データや研究の状況について、原告らにはこれを知る権利があり、よって、2007年以来、くり返し上記実験データが記録されている実験ノートの開示請求を行なってきたものである。

2、第三次訴訟までの道のりの理由
 2007年以来、原告らの開示請求及びこれに対する被告の不開示決定をめぐり本訴(第三次訴訟)まで延々と続くことになった最大の理由は――被告が、2007年12月13日の類似訴訟原告による本研究プロジェクトで実施された実験の実験ノート等の開示請求(以下、第一次開示請求という)に対し、決定期間を延長し慎重に検討した結果、2008年2月12日、実験ノートは「法人文書」と認めた上で、独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律(以下、法という)5条4号ニ、ホの不開示事由該当を理由に全部不開示処分を下したにもかかわらず(甲8開示決定処分の法人文書3)、その後、異議申立手続の諮問理由説明書の中で態度を一転させ、実験ノートは「法人文書」に該当しないと主張、以後、この主張に固執したためである。のちに、2014年のSTAP細胞事件の理化学研究所や山中伸弥教授論文疑惑事件の京都大学が実験ノートを「法人文書」と認めたように(甲9実験ノートに関する理化学研究所の2014年5月19日付不開示決定処分。同10実験ノートに関する京都大学の2015年4月21日付開示決定処分)、被告もこのとき当初の態度を堅持しておれば時代の先端を行くことができたのであるが、本研究プロジェクトで実施した実験の生データが開示されることに対する極度の恐怖心からか、開示請求に対する最大の防御のために、時代錯誤を承知で「法人文書」否定論者に転向してしまったのである。

3、本訴の課題とその解決方針

第一次開示請求に対する実験ノートの全部不開示処分等の取消を求めて、類似訴訟原告は2012年6月5日、提訴したが(第一次訴訟)、裁判所が、開示請求書の文言を理由に、本研究プロジェクトのうち一部(遺伝子組み換え稲の「栽培」そのもの)の実験についてしか審理の対象にしなかったため、類似訴訟原告は改めて、2013年10月8日、被告に対し、本研究プロジェクトの遺伝子組み換えイネの「開発」で実施された実験の実験ノートの開示を請求したところ(以下、第二次開示請求という)、被告は同じく、実験ノートは「法人文書」に該当しないと全部不開示処分をおこなった。そこで、類似訴訟原告は全部不開示処分の取消を求めて提訴したが(第二次訴訟)、裁判所の訴訟指揮により、「開発」で実施された実験の内容と当該実験の実験ノート作成者を特定することとなり、熟慮の末、類似訴訟原告は「抗菌活性実験[1]及び耐病性評価実験[2]」(この2つの実験を総称して、以下、病害抵抗評価実験という)を実施し実験ノートを作成したのは被告職員で植物病理学専門の平八重一之氏及び園田亮一氏であると特定したところ、被告は「両名は病害抵抗評価実験を実施していない。病害抵抗評価実験を実施した者が誰かであるかも明らかにしない」(2015年12月3日付準備書面(5)、2016年5月11日付準備書面(6))と全面的に争う態度に出たため、侃々諤々の審理の末、判決において被告主張が認められ、病害抵抗評価実験で作成された実験ノートの「法人文書」該当性はついに判断されないまま確定した。
そこで、原告は、病害抵抗評価実験の実施者を特定せず(特定すれば、被告が「当該人物は病害抵抗評価実験を実施していない」と主張するのが明白だったので)、病害抵抗評価実験の内容から開示対象文書を特定することとし、2019年8月21日、本訴(第三次訴訟)を提訴するに至った。
これにより本訴は第二次訴訟の不毛な反復を回避することが可能となった反面、新たな課題を抱えることになった。それが病害抵抗評価実験の実施者を特定しないまま、病害抵抗評価実験の実験ノート(以下、本実験ノートという)に対して「組織的に用いるもの」か否かの判断の基礎となる事実(以下、本件事実という)をどうやって認定するのかという問題である。
 この点について、原告は、結論として(その理由は第3、3で後述する)、本件事実の主張レベルと立証レベルの両面において以下のように考えることにより問題の解決が可能であると思料する。
①.本件事実の主張レベル
 ここでの問題は、いかなる事実を「組織的に用いるもの」か否かの判断の基礎とするかであるが、この点については、次の2つの事実を「組織的に用いるもの」か否かの判断の基礎とするのが妥当である。
(1)、本実験ノートについて、現実に存在した取り扱い又は現実に存在する取り扱いの事実
(2)
、本実験ノートについて、存在する可能性がある取り扱いの事実
②.本件事実の立証レベル
 ここでの問題は、いかなる方法で前記①の2つの事実を証明するかであるが、この点については、それぞれ次の「事実上の推定」という間接証明を行なう。
証明の対象
証明の方法
前記①(1)の
事実
事実上の推定、具体的には同じ被告に所属する他の職員(川田元滋、矢頭治、大島正弘各氏)が作成した実験ノートの取り扱いの事実に基づいて①(1)の事実を推認。
前記①(2)の
事実
事実上の推定、具体的には同じ自然科学系の実験を行なう他の研究施設の研究者(木暮一啓氏ほか)が作成した実験ノートの取り扱いの事実に基づいて前記①(2)の事実を推認

第2、実験ノートの特質――一般の開示文書との比較――

実験ノートにおいては、一般の開示文書には見られない、実験ノートに特有の以下に述べる性質が存在する。

1、近代の自然科学の研究における実験ノート作成の重要性

自然科学の研究において実験ノートを作成する重要性はいくら強調してもし足りない。実験ノートがどれほど重要なものか、たとえて言うと《研究室が火事になったら、まっさきにつかむ》(甲11「アット・ザ・ベンチ―バイオ研究完全指南 アップデート版」。93頁)ほど重要なものとされる。なぜなら、自然科学系の研究とは、一般に、仮説を立て、それに基づいて実験計画を立て、実験を実施し、実験の生データを得て記録し、その得られたデータから何が言えるか、とりわけ仮説が検証されるかを考察すること、従って、自然科学の研究において「実験の生データ」より大切なものはない。 また、たとえ研究室が火事で焼けて論文や実験装置が焼け落ちても、実験《ノートがあれば(実験の生データをもとに再び)論文が書けるし、(再び)実験計画が立てられるし、その実験結果をもとにいろいろ組みたてていけるからです。》(同上。但し、括弧内は原告代理人の注記)。この「実験の生データ」が書かれているのが実験ノートにほかならない。

2、実験ノートの制度設計:合理性で貫かれていること

自然科学は合理性に基づいている。その自然科学の研究の要となる実験ノートの取り扱いも当然のことながら合理性の観点で貫かれている。すなわち、実験ノート作成の目的に沿って、目的達成にとって必要かつ合理的な管理、利用、保存、廃棄等の取り扱いが導き出され、実施されている。

3、実験ノートのもう1つの性質・特徴

他方、実験ノートには実験の生データの記録という本来の性質とは異質な(より厳密に言うと本来の性質と相反する)もう1つ別な性質・特徴が備わっている。それが実験ノート作成者が実験に際して、ひらめき、着想、アイデア等を実験ノートに書き留めることである。このため、実験ノートという1つの文書に対して相反する2つの複合的取り扱いが並存するという、一般の開示文書には見られないやや錯綜した事態が存在する。以下、この点を詳述する。

4、相反する2つの情報の記載に由来する相反する2つの相反する複合的性質の並存

実験ノート作成の本来の目的は実験の生データを記録することにある(甲12(木暮意見書)。甲16~17)。生データが記録されていないようなノートは実験ノートではない。とはいっても、実験ノートに生データ以外の情報を記載することができない訳ではない。実験ノート作成者が実験中に自分の思いつき、着想、アイデア等を実験ノートに書き留めることは自由である。ただし、それが書かれていないからといって実験ノートの意味を喪失するわけではない。
ところで、研究組織で行なう研究で実施される実験において、実験ノートに記載される「実験条件や実験結果の生データ」の情報は当該研究組織に帰属する(この点、被告も争わない)。つまりこの情報は個人のものではなく組織的性質を有する。これに対し、実験ノートに記載される「ひらめき、着想、アイデア等」の情報は実験ノート作成者の頭に浮かんだものであるから、当該作成者に帰属するものと扱われる。つまりこの情報は組織のものではなく個人的性質を有すると扱われる。その結果、1つの実験ノートに片や権利が組織に帰属する「実験条件や実験結果の生データ」の情報、片や権利は個人に帰属する「ひらめき、着想、アイデア等」の情報という、相反する2つの情報が記載されており、その結果、実験ノートは一方で組織的性質、他方で個人的性質という2つの相反する複合的性質が並存する文書となる。

5、相反する2つの複合的性質に由来する相反する2つの複合的取り扱いの並存

前記2で前述したとおり、実験ノートの運用は合理的な立場で制度設計されている。従って、実験ノートの性質に沿って、これに相応しい合理的な取り扱いが導かれる。例えば、実験ノートに記録される「実験条件や実験結果の生データ」の情報は組織に帰属するという組織的性質を有することからおのずと、実験ノートの取り扱いとして次のことが導かれる。
①.組織に無断で、実験ノートの「外部への公表」禁止、
②.組織に無断で、実験ノートの「外部への持ち出し」禁止
③.組織に無断で、実験ノートの「自由な廃棄」禁止
ところで、4で前述した通り、実験ノートは組織的と個人的という2つの相反する複合的性質を有するため、その結果、実験ノートの取り扱いもおのずと組織的取り扱いと個人的取り扱いという2つの相反する複合的取り扱いが導かれる。例えば、実験ノートに書き留められる「ひらめき、着想、アイデア等」の情報は作成者個人に帰属するという個人的性質を有することからおのずと、実験ノートの次の取り扱いが導かれる。
①.作成者に無断で、実験ノートの「閲覧」禁止
②.実験ノートの保管は原則として作成者が行なう

6、本件の開示請求の目的と実験ノートの複合的性質・複合的取り扱いとの関係

そこで、問題は本件の開示請求において、実験ノートの「組織的に用いるもの」への該当性を判断する上で、前述した実験ノートの複合的取り扱いをどのように考慮したらよいかである。
この点、結論として、実験ノートの複合的取り扱いのうち組織的取り扱いの面だけを問題にすれば足りると解すべきである。
なぜなら、第1で前述した通り、そもそも本件の開示請求の目的は「作成者個人のひらめき、着想、アイデア等」の開示ではなく、もっぱらディフェンシン耐性菌の出現に関する「実験条件、実験結果の生データ」の情報開示である。この情報は被告組織に帰属するものである。それゆえこれが記録されている実験ノートの組織的性格及びそこから導かれる組織的取り扱いに注目して、「組織的に用いるもの」への該当性を判断すれば足り、その結果、実験ノートが法人文書として扱われたとき、「作成者個人のひらめき、着想、アイデア等」の情報部分の開示に不都合があるならば、当該部分は不開示事由に該当するとして当該部分を除いて部分開示とすれば必要にして十分だからである。
 以下、この立場から、本実験ノートの「組織的に用いるもの」への該当性を吟味検討する。

1、実験ノートの複合的取り扱いについて
 第2、6で前述した通り、ディフェンシン耐性菌の出現に関する「実験条件、実験結果の生データ」の情報開示を求める本件の開示請求においては、実験ノートの複合的取り扱いのうち組織的取り扱いに着目して「組織的に用いるもの」への該当性を判断すれば足りる。

2、「組織的に用いるもの」への該当性の判断基準
「組織的に用いるもの」への該当性の判断基準は判例・通説によれば、
①文書の作成又は取得の状況、②当該文書の利用の状況、③保存又は廃棄の状況等を総合的に考慮して実質的な判断を行う。

3、3つの状況を構成する事実の意義
 第1、3で前述した通り、いかなる事実を「組織的に用いるもの」への該当性の判断の基礎とするかという問題については、結論として、次の2つの次元の事実を「組織的に用いるもの」への該当性の判断の基礎とすべきである。
(1)、本実験ノートについて、現実に存在した取り扱い又は現実に存在する取り扱いの事実
(2)
、本実験ノートについて、存在する可能性がある取り扱いの事実
 その理由は以下の通りである。
司法試験委員会の会議内容の録音物が「組織共用文書」か否かが争われた裁判で、東京地裁平成19年3月15日判決は、「仮に議事要旨を作成する担当者に急病等の差し支えが生じていたならば」と仮定を立て、その場合「当然、他の職員が、本件録音物を利用して議事要旨の作成を代行していたであろうと考えられる」と、他の職員が当該文書を組織的に利用する可能性があることを認定し、この事実を「当該文書の利用の状況」を構成する事実として認定した。実際に存在したかどうかを問わず、「存在する可能性がある取り扱い」に注目したこの判例の見解に対しては、次の事例を検討すればこれが正当であることが容易に首肯できる。
 これまでに所属する研究組織で研究不正の疑惑が発生しなかったため、上司の命令で実験ノートの開示が求められる事態を経験していないとしても、ひとたび2014年のSTAP細胞事件のような研究疑惑が発生した暁には、疑惑解明のために上司が実験ノートの開示を命令した場合には、これを拒否できない取り扱いになるであろうことは通常の研究者であれば異論ないところである。それは実際に存在しないと取り扱いだとしても、実験ノートの組織的性質及び組織的取り扱いから「予見可能な事実」だからである。

4、3つの状況を構成する事実の証明方法

本件の開示請求の対象文書は病害抵抗評価実験の実験ノートであるところ、第1で前述した通り、本実験ノートの作成者を特定していない。そのため、本実験ノートの3つの状況を構成する事実を作成者の証言を得て、そこから直接的に証明することができない。そこで、本訴で原告が試みる証明方法とは間接証明すなわち経験則を利用して他の事実に基づいて証明の目標である事実を推認するという「事実上の推定」である。
 そこで、この「事実上の推定」を3で前述した3つの状況を構成する2つの次元の事実に沿って原告の立証方針を述べると以下の表の通りである。
証明の対象
証明の方法
第1、3(1)の
事実
事実上の推定、具体的には同じ被告に所属する他の職員(川田元滋、矢頭治、大島正弘各氏)が作成した実験ノートの取り扱いの事実に基づいて第1、3(1)の事実を推認。
第1、3(2)の
事実
事実上の推定、具体的には同じ自然科学系の実験を行なう他の研究施設の研究者(木暮一啓氏ほか)が作成した実験ノートの取り扱いの事実に基づいて第1、3(2)の事実を推認

 本実験ノートに記載される情報は、前述の通り、病害抵抗評価実験の「実験条件、実験結果の生データ」の情報と「作成者個人のひらめき、着想、アイデア等」の情報の2つがあるが、第2、6で前述した通り、「組織的に用いるもの」への該当性の判断にあたっては前者を問題にすれば足りる。
(2)、本実験ノート作成の目的
そこで、「実験条件、実験結果の生データ」という情報を記録する目的について検討する。
第1で前述した通り、自然科学系の研究において実験の生データを記録する実験ノートを作成することは研究方法の本質に由来する不可欠のものである。加えて、現代の自然科学系の研究スタイルは個人の単独研究ではなく、複数人の共同研究が基本である。それゆえ共同研究においては共同研究者間および上司と研究者の間で、実験の生データを情報共有することが不可欠となる。つまり、共同研究においては実験の生データを情報共有するために、実験の生データが書かれた実験ノートを他の共同研究者、上司に直接または間接に見せることを前提にしている。
従って、現代の自然科学系の研究においては、組織の共同研究を円滑に進めるために実験ノートの作成及び利用は不可欠である。
 本実験ノートも同様に、自然科学系の研究において不可欠なものとして、及び組織の共同研究を円滑に進めるという目的のために作成されるものである。
 これに対し、被告職員の大島正弘氏は実験ノート作成の目的について、くり返し次のように言う。
《後日の備忘だけでなく、実験条件の正確性・再現性を担保するため》(甲21大島陳述書5頁2~3行目)
《まず第1に自分の備忘です。忘れために、あるいは後日その実験を正確に再現する必要があったときに、それを行うための基礎資料です。》(甲20証人大島3頁)
ところで、第2、1で前述した通り、〈研究室が火事になったら、まっさきにつかむ〉のが実験ノートであり、その訳はたとえ研究室が火事で焼けて論文や実験装置が焼け落ちても、実験ノートさえあれば実験の生データをもとに再び実験計画が立てられるし、その実験結果をもとにいろいろ組みたてていけるからで、これこそ上記大島陳述書の「実験条件の正確性・再現性を担保するため」にほかならない。これに対し、上記大島陳述書前段の「後日の備忘のため」とは、主に「作成者個人のひらめき、着想、アイデア等」を書き留めることを念頭に置いたものであり、この意味で、実験ノートの複合的性質に即して2つの目的を指摘した大島陳述書・証言は原告主張と別に対立するものではない。

2、共同研究における実験ノート作成者の交替可能性

 一般に、共同研究においては実験の実施者(同時に実験ノート作成者)は状況に応じて適宜割り振りされ、必要に応じて担当が交替となる。とりわけテクニシャン[3]の場合にそれが顕著である。なぜなら、テクニシャンはそもそも得られたデータを自分で使うのではなく、それを研究者に提供することを専らの目的として雇用された人たちであり、それゆえ研究者の指示で、適宜、実験の担当が決まったり変更されたりするからである。ここからも明らかなように、組織における共同研究の実験の実施は状況に応じて別の者に交替する可能性を有するものであり、たとえ担当者が努力と情熱と時間を傾けて行なうものだとしても、あくまでもそれは組織的な業務の一環であり、私的、個人的な営みではないということである。大島証言でも、
《そもそも契約職員さん(原告代理人注:テクニシャンを指す)に実験をお願いしているようなケースが多かったです。》(甲20証人大島14頁)
とある通り、被告の研究施設においてはこうしたテクニシャンが多数の実験を実施しており、それだけに、実験の実施及び実験ノート作成行為が私的、個人的な営みでないことは一層明らかである。

3、本実験ノートの性質及び作成の目的から推認されること1(管理の状況)

(1)、一般論
第3、5で前述した通り、実験ノートの運用は合理的な立場で制度設計されており、実験ノートの性質に沿って、これに相応しい合理的な取り扱いが導かれる。実験ノートに記録される「実験条件や実験結果の生データ」の情報について、これらの情報は組織に帰属するという組織的性質を有することからおのずと、実験ノートの管理に関して次の組織的取り扱いが導かれる。
①.組織に無断で、実験ノートの「外部への公表」禁止、
②.組織に無断で、実験ノートの「外部への持ち出し」禁止
(2)
、本実験ノート
 この点につき、被告所属の大島正弘氏は、第二次訴訟において、実験の生データや実験条件を記録した文書を実験担当者が勝手に公開することは許されるかという質問に対し次の通り証言した。
《平成24年以前のお話をさせていただきたいと思いますが、‥‥その頃も当然ながら研究結果の外部発表は、組織としての許可を必要とすることになっておりました。》(甲20証人大島30頁)
 なおかつ、これまでのところ、被告より、被告職員が作成する実験ノートにおいて、前記(1)の一般論と異なる取り扱いを証明する証拠も提出されてない以上、本実験ノートの管理について、前記(1)の一般論と同様の取り扱いであると解することができる。

4、本実験ノートの性質及び作成の目的から推認されること2(利用の状況)

第4、1で前述した通り、本実験ノートも一般の実験ノートと同様、自然科学系の研究において不可欠なものとして、及び組織の共同研究を円滑に進めるという目的のために作成されるものであるが、この目的からおのずと、実験ノートの利用に関して次の各場合において組織的取り扱いが導かれる。
(1)、共同研究者間
ア、一般の実験ノート
 実験ノートを直接見せて実験データの矛盾点、問題点をめぐって討議・検討することがあるのは一般に異論がない(甲12木暮意見書3頁第3、4参照)。
イ、本実験ノート
(ア)、川田元滋氏の証言
 この点につき、被告所属の川田元滋氏は、第一次訴訟において、共同研究者同士で、生データを記録した実験ノートを見せ合うことはあるのか?という裁判官の質問に対し次の通り証言した。
《あったかと思います。なぜかというとこういう実験がうまくいかないんですがという、その技術的な相談をするときに、そういうやり取りは実際あると思います。》(甲18証人川田22頁下から7~4行目)
「あなたのほうから実験スタッフに、スタッフの方が自らデータとかを示さない場合に、こういうデータはどうなっているかということで、示してもらうこともあり得るのか」という裁判官の質問に対し、
《もちろんあり得ます》(甲18証人川田23頁)
(
イ)、大島正弘氏の証言
(
ⅰ)、同じく、大島正弘氏は、第二次訴訟において、川田氏の証人尋問の問答(「同じ研究室で、共同研究のスタッフ同士で実験ノートを見せ合うか」という質問に対し、それを認める証言をした)を読み上げ、「川田氏のこの証言は、大島研グループでも同様のことがあったのではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《それは同じ部屋にいますから、あったと思います》(甲20証人大島18頁下から6行目~19頁10行目)
(ⅱ)、また、木暮意見書(甲12)の記述(結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、実際に生データが記録された文書を直接参照する)を読み上げ、「大島研グループでも同様のことがあり得ますか」という質問に対し次の通り証言した。
《それは、議論の素材になるデータがなければ議論そのものができませんから、そういったものを見せていただくことは当然あり得ます》(甲20証人大島21頁5~6行目)
(ⅲ)、提出済みの大島陳述書(甲21)の以下のくだりを読み上げ、 
《研究室内部で報告や議論をする際には、データを見やすい形に整理した図表等を作成させ、それに基づいて打ち合わせを行っておりました。その過程で実験条件等を更に詳しく知りたいときは口頭での補足を求めたり、記録の一部を見ることはしました。》(甲21大島陳述書5頁(3)。
「『記録の一部を見る』というのは、実験条件や実験の生データが記録されている文書を見るということではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《そういう場合にいろいろな資料を見ることは当然ございます》(甲20証人大島18頁16~17行目)
さらに「実験条件や実験の生データが記録されている文書を見ることもあるか」という質問に対し次の通り証言した。
《はい》(甲20証人大島18頁下から7行目)
(ⅳ)、「共同研究の過程で、実験結果が、それまでの実験データと矛盾したり、想定した実験結果と食い違ったり、それまでの考えでは説明ができない現象が起きることはあるのか」という質問に対し次の通り証言した。
《研究ですから恐らくそういったようなことは、まま起こることです》(甲20証人大島12頁4行目)
 そこで続いて、「その場合、その原因を考え、対策を立てる必要があるのではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《当然です》(同上同頁7行目)
そこでさらに、「そこで、そのために、実際の実験条件や実験の生データを直接見ながら、その実験を担当した者に説明を求めたり、共同研究者間で討議することがあるのではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《場合によってはそういうことももちろんあったかと思います》(同上同頁11行目)
そこで、これに続いて、「実験直後ではなく、少し後になってから実験条件や実験の生データを直接見ないと分からない場合には、それらを記録してある実験ノートを見ることがあるのではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《特に生データを見る必要がない場合には見ません。必要があれば見たかもしれません》(甲20証人大島13頁1~2行目)
(ⅴ)、また、正規の職員と非正規の契約職員との区別に関連して、「正規の職員について、実験条件や実験の生データを直接見ながら、大島氏が説明を求めたり討議することがあるのではないか」という質問に対し次の通り証言した。
《生データを見せていただいて議論することはあります》(甲20証人大島14頁下から7行目) 
(ウ)、小括
 上記の通り、被告職員2名において、実験ノートを共同研究者間において「直接見せる」という利用の事実から、本実験ノートにおいても共同研究者間において「直接見せる」という利用の事実を推認することができる。

(2)、テクニシャンから
ア、一般の実験ノート
 研究者がテクニシャン作成の実験ノートを直接見るのは、第4、2で前述した通り、テクニシャンとは本来得られたデータを自分で使うのではなく、それを研究者に提供することを専らの目的として雇用された人たちであることからの当然の帰結であり、一般に異論がない(甲13木暮意見書(2)4頁参照)。
イ、本実験ノート
(ア)、大島正弘氏の証言
想定外のデータが出て、問題点を検討するために、実験ノートの実験条件や実験の生データを直接見ることがあるのではないかという質問に対し次の通り証言した。
《そもそも契約職員さん(原告代理人注:テクニシャンを指す)に実験をお願いしているようなケースが多かったです。そうしますと、その場合には個々の一貫した原記録というよりも、1回1回のメモ(原告代理人注:実験の生データを記録した文書の1つであり、実験ノートの定義に該当する)を見ながらお話しするということになります。》(甲20証人大島14頁)
すなわち、大島氏の場合、実験を実施したテクニシャンから実験の生データを記録した文書すなわち実験ノートを見せてもらい、実験について説明を聞くという事実が存在することが明らかである。従って、この事実から本実験ノートにおいてもテクニシャンから「直接見せてもらう」という利用の事実を推認することができる。

(3)、実験の報告をする上司との間
ア、一般の実験ノート
 木暮一啓東京大学教授(当時)の意見書(甲12)の以下の記述から明らかな通り、実験の報告に際し上司との間で、実験結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、実験の生データが記録されている実験ノートを直接見ながら討議・検討するのが通常である。
「研究に関する上司に対しても、①の実験データを見せることを想定しています。とりわけ実験直後にその数値などを実験ノートに記入したいわゆる生データが重要です。通常、その生データからその数字をパソコンに打ち込んで図表を作るのが一般的ですが、そこで結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、まず生データの記録を参照するのが普通です。経験を持つ上司が生データを実際に見ることにより間違いを発見したり、そもそもデータが信頼できるものかどうかを判定することが可能になるからです。」(3~4頁)
イ、本実験ノート
 類似訴訟において、実験の報告に際し上司との間で討議・検討することに関する被告職員による証言はないが、仮に本実験ノートの作成者が実験の報告に際し上司との間で、実験結果に疑問や不合理な点が出てきた場合には、当然、実験の生データが記録されている実験ノートを直接見ながら討議・検討することになるであろうと考えられる。すわなち、この場合、報告を受けた上司が実験ノートを直接見ながら討議・検討する可能性がある、換言すれば組織的に利用する可能性があると認められる。

(4)、研究不正が疑われるなど上司の命令があった場合

ア、一般の実験ノート
2014年のSTAP細胞事件が近時の顕著な現象であるが、ひとたび研究不正が疑われるという異常事態が発生した場合、もはや当該共同研究者グループの問題にとどまらず、研究者の所属する組織の社会的信頼・名誉に関わる重大問題となるため、当該組織は実験ノートを直接見て不正の有無を検証することになる。そこで、上司が問題の実験ノート作成者に対しノートの提出を命じ、作成者は命令に従うことになる。このとき、ノート作成者は実験ノートを純然たる私物であるかのようにみなして提出命令を拒否することは許されない。こうした研究不正の疑いという異常事態が発生した時にこそ実験ノートの本質(組織的規律に服する)が顕現すると言うべきである。
イ、本実験ノート
類似訴訟において、研究不正が疑われ上司が実験ノートの提出を命じたことに関する被告職員による証言はなく、むしろ「幸い、私の組織では、上司が実験ノートを見せろと命令するような例に遭遇しておりません」(甲20証人大島29頁)と証言している。
しかし、仮定の話として、大島氏は実験データが記録されている文書を上司が実験担当者にを見せろと命令した場合、それを拒否できるかという質問に次の通り証言した。
「業務命令として、もし仮にそのようなものが出れば、それは、組織に属する人間として拒否はできないと思います」(甲20証人大島30~31頁)
 また、矢頭氏も実験データを管理する研究者に対して、彼の上司が実験データを見せろと命令した場合、それを拒否できるかという質問に次の通り証言した。、
「できないと思います」(甲19証人矢頭12頁)
 上記2名は仮に被告において実験データが記録されている実験ノートを上司が実験担当者にを見せろと命令した場合には、当然、拒否できないことを認めている。
以上から、被告において作成される実験ノートを見せろという上司の命令が発動される可能性があり、その場合には当然これに従うことになる、その意味で本実験ノートを組織的に利用する可能性があると認められる。

5、前記4(利用の状況)の主張に対する反論及び再反論
これまでの類似訴訟の中で、前記4に対しては次の反論が考えられる。

(1)、「直接見せる」のが通常ではないこと

ア、反論
実験ノートを「直接見せる」というのは通常の利用ではなく、稀にしかないから、「組織的に用いるもの」に該当しない(第二次訴訟一審判決51頁10~16行目)。
イ、再反論
 しかし、法2条2項の「組織的に用いるもの」の文言は利用の頻度は問題にしていない。むしろ「組織的に用いるもの」とは当該組織において、業務上必要なものとして、利用又は保存されている状態のものを言い、たとえこれまで一度も利用の事実がない場合つまり利用の頻度がゼロでも、当該文書が当該組織において、業務上必要なものとして保存されている状態ならば「組織的に用いるもの」の該当性を肯定している。
 以上から、利用の頻度が低いことを理由に「組織的に用いるもの」の該当性を否定するのは誤りである。

(2)、「直接見せる」のが個人的利用・事実的利用にとどまること

ア、反論
《研究者間で個人的あるいは事実上のやり取りとして行われる検討の際の一資料として用いられたにすぎず》(第二次訴訟控訴審判決9頁13~14行目)、「組織的に用いるもの」に該当性しない。
イ、再反論
共同研究者間で実験ノートを「直接見せる」場合の場所(被告組織における共同研究の施設内)、時間(業務時間内)及び実態(研究室内で定例で開かれる進捗状況の報告会など)に照らし、被告の共同研究者間で実験ノートを「直接見せる」のは、プライベートな場所でプライベートな時間にプライベートなやり方で見せているのではなく、あくまでも組織の業務上の研究活動の一環として被告研究施設で業務時間中に、一緒に討議検討する共同研究者全員の前で見せている。これを組織の業務上の研究活動とは別個の、プライベートな時間、空間、状況で用いられた個人的なやり取りと認定するのは明らかな事実誤認である。

(3)、様々な状況で個人的な扱いをしていること

ア、反論
他方で、実験ノートの取り扱いとして、①.作成者に無断で、実験ノートの「閲覧」禁止や②.実験ノートの保管は原則として作成者が行なうといった個人的な扱いをしており、この点に注目すれば「組織的に用いるもの」に該当しないと解すべきである。
イ、                       再反論
 確かに、実験ノートにおいて、上記のような個人的取り扱いをすることはその通りである。しかし、第2、5で前述した通り、そのような個人的取り扱いをする理由は実験ノートに書き留められる「ひらめき、着想、アイデア等」の情報が作成者個人に帰属するとされ、個人的性質を有するからである。しかし、本訴で「組織的に用いるもの」への該当性を問題にしているのはそのような個人的な情報ではなく、本件開示請求の対象である実験条件や実験結果の生データという組織に属する情報である。従って、「組織的に用いるもの」への該当性を判断するためには、組織に属する情報に由来する組織的な取り扱いを取り上げて判断すべきである。それをせず、個人的な情報に由来する個人的な扱いを取り上げて、「組織的に用いるもの」への該当性を否定するのは解釈を誤ったものというほかない。

(4)、実験ノートに関する研究者の意見書や他の法人における取り扱例は本実験ノートと無関係

ア、反論
 他の法人における実験ノートの実例と本件の実験ノートとを比べた時、、被告は以下の通り、「両者は無関係」と主張した。
《実験ノートに関する一般論や他の法人における取り扱例は、矢頭及び平八重作成の実験ノートが被控訴人の法人文書に該当するか否かには何ら影響を及ぼすものではない。》(第一次訴訟控訴審、被告答弁書5頁(3))
イ、再反論
 実験ノートに関する一般論のうち、少なくとも木暮一啓氏作成の意見書に関する限り、その文面からも明らかな通り、実験ノートについて決して木暮氏独自の取り扱いを述べたものではなく、あくまでも実験ノートの本質(実験の生データを記録)や自然科学研究の本質(研究の行き詰まり・矛盾逢着の時に、生データに立ち帰る)から引き出せる普遍的又は一般的な取り扱いを述べたものにほかならない。それゆえ、本実験ノートでも木暮氏が述べたような取り扱いをする可能性があることは十分肯定でき、この可能性を踏まえて、本実験ノートについて「組織的に用いるもの」への該当性を判断すべきである(司法試験委員会の会議内容の録音物が「組織共用文書」か否かが争われた裁判で、東京地裁平成19年3月15日判決参照)。
以上の点の詳細について、木暮氏自ら解説する意見書を近く提出予定である。

6、本実験ノートの性質及び作成の目的から推認されること3(廃棄の状況)

(1)、一般の実験ノート
第3、5で前述した通り、実験ノートの運用は合理的な立場で制度設計されており、実験ノートの性質に沿って、これに相応しい合理的な取り扱いが導かれる。実験ノートに記録される「実験条件や実験結果の生データ」の情報について、これらの情報は組織に帰属するという組織的性質を有することからおのずと、実験ノートの保存・廃棄に関しても次の組織的取り扱いが導かれる。
①.組織に無断で、実験ノートの「自由な廃棄」禁止
(2)
、本実験ノート
 実験ノートがもし純然たる私物ならば「いつでも作成者自身の判断で自由に廃棄すること」が可能である。しかし、以下に述べる通り、被告組織ではそのような扱いは許されない。
(ア)、矢頭治氏の証言
(ⅰ)、不要になっていないものは廃棄すべきではないかという質問に次の通り証言した。
《そうですね。》(甲19証人矢頭11~12頁)
(ⅱ)、上司が「まだ廃棄するな」と命じた時、それを無視して自分の判断で廃棄できるかという質問に次の通り証言した。
《それは私はできないと思っています。》(同上12頁)
(イ)、大島正弘氏の証言
実験が途中で、まだ実験データが不要になっていない段階で、担当者が勝手に廃棄できるか、という質問に次の通り証言した。
《理事長通達以前でまずお答えいたします。‥‥実験がまだ終わっていない状況で、それを一存で廃棄するのはいかがなものかと思います。》(甲20証人大島29頁)
(3)、小括
 上記の通り、被告職員2名において、組織に無断で、実験ノートの「自由な廃棄」が禁止されるという事実から、本実験ノートにおいても組織に無断で、実験ノートの「自由な廃棄」禁止の事実を推認することができる。

1、3つの状況を総合的に考慮して実質的な判断を行った結論
 以上のような本実験ノートの性質及び作成の状況、これらから合理的に推認される本実験ノートの管理及び利用の状況等を総合的に考慮すれば、本実験ノートは本研究プロジェクのうちの「抗菌活性実験及び耐病性評価実験」の実施という業務に不可欠なものとして、本研究プロジェクトの共同研究者間及び上司において利用又は保存されている文書であり、法2条2項における法人文書の要件である「組織的に用いるもの」に該当するというべきである。

2、2012年理事長通達の意義

 さらに、被告自身が、2012年理事長通達(乙5)以後、被告職員が作成する実験ノートについて、行政文書の要件である「組織的に用いるもの」への該当性を肯定している。尤も、これに対しては、被告は本件理事長通達により、「実験ノートは第三者に読まれることや研究の進行管理等において積極的に活用されること等を前提として作成されるようになり、また、その管理や保存についても被告において統一的な取り扱いがなされるようになった」こと等を理由に、これ以降作成される実験ノートに初めて「組織的に用いるもの」への該当性が肯定されるようになったと主張した(被告準備書面(1)6頁3)。
 しかし、本件理事長通達(乙5)の記載からも明らか通り、前記通達の目的は、従来のように実験ノートの作成方法や管理方法が個々の研究者任せでは十分な活用が図れないので、積極的な活用のために実験ノートの作成方法や管理方法について新たなルールを導入することにしたものである。従って、職員に変更を促しているのは①実験ノートの作成と③実験ノートの管理保管に関する部分にとどまり、 実験ノートの「組織的に用いるもの」への該当性を判断する上で要となる「実験ノートの利用」に関しては「これまでの自主的な実験ノートの活用を基本とした仕組みとして」と変更はなく、せいぜい、これまでの活用を基本とした仕組みを「推進すること」、つまり従来の利用のやり方を「もっと積極的に」やれとはっぱをかけているにすぎない。
ということは、見やすく、扱いやすい実験ノートに改善し、「実験ノートを直接見せる」機会をもっと増やすことを促している。すなわち、従来のやり方で既に「組織的に用いるもの」に該当していたものを、さらに「推進すること」、「もっと積極的に」やることを求めたものである。
以上から、一片の本件理事長通達により、被告職員が作成する実験ノートの「組織的に用いるもの」への該当性の判断は影響されない。被告は法人文書不開示決定(甲4)で示した実験ノートの「組織的に用いるもの」への該当性に関する正しい判断を本件理事長通達以前の本実験ノートにも首尾一貫して及ぼすべきである。

3、予備的主張

 仮に百歩譲って、本実験ノートが組織共用文書かそれとも自己利用文書であるか判然としないとしても、情報公開法制定当時の立法者意思に従い説明責任を全うする観点からすれば、そのように判然としない場合にはひとまず本実験ノートを法人文書として扱い、その上で開示に不都合があるならば、不開示事由に該当するとして非公開にすれば足りると解すべきである。明言しないものの基本的にこのような立場に立った判例が、第3、3で前述した、司法試験委員会の会議内容の録音物等の行政文書該当性を肯定した東京地裁平成19年3月15日判決である。その他、これを支持する学説は松村雅生「東京地裁平成19.3.15判決評釈」の1(甲22)・小早川光郎編「情報公開法その理念と構造」73~74頁(註9)(甲23)。奥平・塩野対談「情報公開法制定に向けて」法律時報69巻1号12頁(甲24)編集代表井出嘉憲ほか「講座 情報公開 構造と動態」220頁(甲25)である。

4、小括と今後の準備

以上の主位的主張及び予備的主張から、本実験ノートは法2条2項における法人文書の要件である「組織的に用いるもの」に該当するというべきである。
また、第4、5、(4)で前述した通り、原告は、今般提出した4通の木暮意見書が実験ノートの取り扱いについて決して木暮氏独自の取り扱いを述べたものではなく、普遍的又は一般的に通用する取り扱いを述べたものであることを明らかにした意見書を近く作成・提出する予定である。
以 上



[1] タンパク質ディフェンシンそのものが様々な病原菌に対して増殖を抑制する効果があるかを検証する実験のこと。
[2] ディフェンシンの遺伝子を組み込んだ組換えイネを栽培したものが様々な病原菌に対して増殖を抑制する効果があるかを検証する実験のこと。
[3] 研究組織において、研究者とは異なり、実験など特定の技術的な支援のために非正規で雇用している人々のこと。例えば、大量のサンプルを或る決められた方法で処理する人、その保持や操作に特定の技術が要求されるような機器を専門に扱う人、研究上重要だがその習得が難しい特殊な技術を持っている人など(甲13木暮意見書(2)4頁参照)。

  ***************


令和元年(行ウ)第424号 法人文書不開示処分取消請求事件     
原  告  大庭 有二
被  告  国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

証 拠 説 明 書 (2)
2020年 2月21日
東京地方裁判所民事第3部A1係  御中
                
               原告訴訟代理人 弁護士  柳 原 敏 夫
                      ほか3名
(甲5~25)
甲号証
標     目

(原本・写の別)



作 成

年月日

作成者

立 証 趣 旨

備考

5
記者発表資料「いもち病と白葉枯病に強い、複合病害抵抗性組換えイネ系統の作出に成功!」
写
2001.10.3
被告
プレス発表で明らかにした本研究プロジェクトの研究成果の内容。


6
写
2009.12. 1
順天堂大学教授 平松啓一
耐性菌研究の世界的な権威である平松啓一教授による、本研究プロジェクトの屋外栽培実験によりディフェンシン耐性菌が出現した可能性が高く、ディフェンシン耐性菌の脅威について非常に憂慮する旨の意見書。


7
写
2005.11.2
Charlotte Schubert
抗菌タンパク質研究の権威で抗菌タンパク質で耐性菌は出現しにくいと主張していたZasloff博士が、実験により容易に耐性菌が出現したことを確認し「もし何かが試験管の中で起こるなら,それは実際の世界でも起こるでしょう」と警鐘を鳴らした。
アイオワ大学の微生物学者Brogden教授が「抗菌剤耐性が出現したら,私たちの防御システムの大部分を攻撃にさらすことになる」「もしそういう耐性菌が広まったら、ちょっとした切り傷や擦り傷も治らなくなるでしょう」と警鐘を鳴らした。
訳文添付

8
法人文書の開示請求に係る決定について(通知)
写
2008.2.
12
被告
本研究プロジェクトで実施された実験の実験ノート等の開示請求に対し、被告が実験ノートを「法人文書」であると認めたこと。


9
法人文書不開示決定通知書
写
2014.5.
19

理化学研究所
遺伝子の組換えに関する実験の過程で作成された実験ノートの開示請求に対し、不開示決定の理由の中で、当該実験の過程で作成された実験ノートは理研の法人文書であることを明らかにした。


10
法人文書不開示決定通知書
写
2015.4.
21
京都大学
生命科学の研究開発の実験の過程で作成された実験ノートの開示請求に対し、開示決定がなされたこと。
担当研究者が「発表した研究論文については、その根拠データは誰にもオープンにされるのが当然であり」という考えを述べたこと。


11
書籍「アット・ザ・ベンチ―バイオ研究完全指南 アップデート版」(抜粋)
写
2006.10.1
キャシー・バーカー
《研究室が火事になったら、まっさきにつかむ》くらい重要な、《もしもノートがなくなったら、研究室にいなかったのも同然》とされる実験ノートの本質、その利用・管理の仕方について


12
写
2013.3.4
東京大学大気海洋研究所教授
木暮 一啓
実験ノートの作成の有無について
実験ノートの作成者は誰かについて
実験ノートの活用方法について
実験ノートの管理方法について


13
写
2014.1.
22
同上
川田元滋氏の陳述書を読んだ感想。とくに、
共同研究者間で実験ノートを見せ合う(共同使用)ことを否定する陳述、「価値がないと判断した実験データはその場で廃棄」「実験データは定期的に廃棄」という実験データの廃棄に関する陳述に対する批判。


14
意見書(3)
写
2017.10.29
同上
平八重一之氏の陳述書及び彼の証人調書を読んだ以下の感想。
・陳述書について
1、植物病理学の豊富な経験に基づくノウハウが必要な耐病性評価実験
・平八重氏の証言について
1、実験ノート作成の目的
2、前任者の中島氏からの引継ぎについてなど


15
写
2018.6.
6
木暮一啓
東京大学大気海洋研究所客員教授
第二次訴訟一審判決の事実認定の問題点について
1、論文の「共著者」に名を連ねた人は何をした人か
2、研究プロジェクトをどのように進めるか
3、実験ノートほか


16
「研究論文の疑義に関する調査報告書」と」題する書面(抜粋)

写
2014.3.
31



理化学研究所・研究論文の疑義に関する調査委員会
STAP論文に不正がなかったかを調査した最終報告書中で、実験ノートの管理のあり方について言及。


17
「実験ノートの基本:日付と生データは必須、実験室外持ち出し禁止」と題するエッセイ
写
2014.4.7



奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科教授佐藤匠徳
生命科学研究者にとって、実験ノートは「命」であるという信念から、実験ノートの性質、目的、管理について語ったもの。



18

証人調書
写

2013.11.12
被告職員
川田元滋

本研究プロジェクトの「栽培」の実験に参加して作成された実験ノートの取り扱いについて


19
証人調書
写
同上
被告職員
矢頭治
矢頭治作成の実験ノートの取り扱いについて


20
証人調書
写
2017.1.
13
被告職員
大島正弘
大島正弘作成の実験ノートの取り扱いについて


21
陳述書
写
2016.5.
11
同上
同上


22
評釈「 司法試験委員会の会議内容の録音物等の行政文書該当性、物理的不存在及び不開示情報該当性[東京地裁平成19.3.15判決]」
写
2007
松村雅生
文書の作成、管理、廃棄について明示の組織的意思決定がなく、利用についても担当職員が単独で行っており外形的には共用の実態がないにもかかわらず、作成(委員会の黙認)、利用(議事要旨の確認のため他者が利用する可能性)、廃棄(議事要旨確定までの間の保存の必要性)を実質的に捉えて組織共用性を認めた判例を紹介。


23
書籍「情報公開法その理念と構造」73~74頁)
写
1999.7.
20
小早川光郎編
組織共用文書か自己利用文書か判然としない場合、当該文書を行政文書であるとして扱い、それが開示されることによる不都合があるならば、不開示事由に該当するとして非公開にすれば足りるとする見解。


24
対談「情報公開法制定に向けて」(法律時報69巻1号12~13頁の塩野発言)
写
1997.1
奥平康弘・塩野宏
同上。


25
「講座 情報公開 構造と動態」220頁
写
1998.10.
10
編集代表
井出嘉憲ほか
同上。



以 上


2019年8月28日水曜日

【お知らせ】第三次実験ノート裁判の第1回目の期日は10月30日(水)午後1時30分

◆第三次実験ノート裁判の第1回目の裁判のお知らせ

8月21日に提訴した第三次実験ノート裁判(提訴の内容->こちら)、その第1回目の裁判を以下の日程が決まりました。

公開の法廷で、裁判の情報公開をやりますので、市民の皆さんも、ふるって傍聴下さい。。

    ***********************

日時:10月30日(水)午後1時30分~
場所:東京地裁5階522号法廷
    民事3部 

地図 ->こちら
                        東京地裁の建物全景

2019年8月21日水曜日

【速報】第三次実験ノート情報公開事件の提訴(2019.8.21)

本日8月21日、これまで2度にわたって行ってきた、遺伝子組換えイネの実験の生データを記録した実験ノートの開示請求に対する農研機構の全部不開示決定の取消を求める裁判に続き、3度目の裁判の提訴を東京地裁に行いました。訴状は末尾に紹介。PDFは->こちら。

当日、記者クラブに送った提訴の詳細情報を以下に転載します。 

※ 実験ノート裁判への支援・協力のお願い(その詳細は->こちら)

現状を率直に申し上げます。今回の第三次提訴の裁判費用のため、カンパが底をつきました。皆様から千円でもよいので、以下の口座までカンパいただけたら第三次裁判を継続することが可能となります。
ご支援・ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

銀行 東京三菱UFJ銀行
支店 広尾支店
名義 動的平衡基金 代表 神山美智子
種別 普通預金

口座番号 0198271

    ***************

21世紀の世界の行方を決める科学技術事故に対するシビリアンコントロールを正面から問うた
           第三次バイオ実験ノート情報公開事件、本日提訴


1、裁判の当事者
原告:大庭有二(小田原市在住の市民)
被告:国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

2、提訴までの経緯
2005年と2006年、国(独立行政法人)は、新潟県上越市で、多くの住民の反対を押し切って、日本で最初の遺伝子組換えイネの野外実験を強行しました。





多くの住民がこの野外実験に反対した最大の理由は、この遺伝子組換えイネはディフェンシン耐性菌という人類と地球環境に大変な危険をもたらす可能性を持つ新たな生物を生み出すからです。住民は、この野外実験の中止を求めて、そしてこの野外実験の危険性を明らかにするために、裁判を起こしました(裁判の公式HP->禁断の科学裁判)


その裁判で、多くの問題点が明らかにされましたが、被告(独立行政法人)は最後まで、この実験の核心部分を決して明らかにしようとしませんでした。

他方、かつて法廷で傍聴人のメモ解禁を勝ち取った人権弁護士ローレンス・レペタさんはこの危険な遺伝子組換えイネの実験に関心を抱き、2007年、国(独立行政法人)に対し、この実験データを記録した実験ノートの情報開示の請求を行いましたが、「実験ノートを私物である」という理由で情報公開を拒否されました。そこで、この処分の取消しを求めて2012年提訴しました(第一次訴訟)。
第一次と第二次訴訟で本筋と無関係な脇筋の理由で敗訴し、今回、本命の本筋で勝負する第三次訴訟を提訴するに至りました。
今回の特徴は、本年2月、被告(独立行政法人)が2012年4月以降のバイオ実験で作成した実験ノートを私物ではなく、公開の対象となる法人文書と初めて認めたことです。その結果、同じバイオの実験で実験データを記録した実験ノートが片や私物であり、片や法人文書であるとなり、それが不合理なのは明らかです。今回の提訴では、この矛盾を追及し、2012年以前のバイオ実験の実験ノートの情報公開を勝ち取る所存です。

2011年3月の原発事故は、私たちがもはや科学技術に対する神話(信頼)の中で生きていけないことを思い切り私たちの頭に叩き込みました。ではどうしたらよいのか、その対策は依然模索中です――その解決の鍵は主権者である私たち市民の手にあり、科学技術事故に対し市民が監視し、チェックする(科学技術事故に対するシビリアンコントロール)、ここに立ち帰るしか過酷な科学技術事故を防ぐ手立てはない。そう確信する市民が起こしたのが今回の科学技術の生データを記録した実験ノートの情報公開裁判です。
いま、私たちは、科学技術事故に対するシビリアンコントロールが成功するかどうかが、21世紀の人類が生き延びられるかどうかを決める決め手になるという崖っぷちに立たされています。このことを自覚して、そのシビリアンコントロールのささやかな挑戦の1つを本日の提訴でスタートさせます。
(これまでの実験ノート裁判の詳細はhttp://disclosure-labnote.blogspot.com/ 参照下さい)。

※ 連絡先:原告代理人 弁護士 柳原敏夫
                     武藤総合法律事務所
                          TEL  03(6268) 5880
携帯 ‥‥

   ***************

訴    状



2019年8月21日

 東京地方裁判所 御 中

      原告ら訴訟代理人弁護士    古   本   晴   英
              同      神   山   美 智 子
              同      船   江   莉   佳
              同      柳   原   敏   夫

〒250-0045 神奈川県小田原市‥‥
              原  告   大   庭    有   二
   〒102-0083 東京都千代田区麹町2-2 VORT半蔵門Ⅱ3階
           麹町国際法律事務所(送達場所)
             電 話 ‥‥
             FAX ‥‥
      上記原告訴訟代理人 弁 護 士   古   本   晴   英
〒106-0045 東京都港区麻布十番4-4-1ツイン一の橋2028
神山法律事務所
電 話 ‥‥
FAX ‥‥
同       弁護士  神  山   美  智  子
   〒160-0004 東京都新宿区四谷2-13-27 KC四谷ビル2階
             ホクレア法律事務所
             電 話  ‥‥
                 FAX   ‥‥
        同       弁護士 船   江    莉   佳
   〒100-0006 東京都千代田区有楽町1-7-1
有楽町電気ビルヂング北館5階512・513・514区
武藤綜合法律事務所
             電 話 ‥‥
             FAX ‥‥
同     弁 護 士   柳   原   敏   夫
   〒305-8517 茨城県つくば市観音台3-1-1
              被  告   国立研究開発法人農業・食品産業
                     技術総合研究機構
              代表者理事長 久   間   和   生         
   (処分をした行政庁の表示および送達先)
              同  上


法人文書不開示処分取消請求事件
 訴訟物の価額    金160万円
 貼用印紙額   金1万3000円


第1 請求の趣旨
 1 被告が原告に対し2019年4月23日付でした法人文書不開示処分を取消す
 2 訴訟費用は被告の負担とする
  との裁判を求める。

第2 請求の原因
 1 本件不開示処分の存在
(1)原告は、2019年3月28日、被告に対し、独立行政法人等の保有する情報公開に関する法律(以下、「法」という)に基づき、別紙請求文書目録1記載の「実験に関する実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート、ラボノート、ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験により得られた生データ(raw data)及び実験条件を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)。」(以下、「実験ノート」という)の開示を請求した(甲1。法人文書開示請求書控)。

(2)被告は、2019年4月23日付「法人文書の開示をしない旨の決定について」(甲2。以下「本件処分」という)により、原告が開示を求めた法人文書を全部不開示とした。    
原告は、同決定を同月24日頃に受領した。
法人文書の不開示理由は、法人文書に掲げる実験ノートについて、組織共用性が認められず、法人文書と認められないことを理由として全部不開示とした。
2 不開示処分の違法性
  他方、これに先立って、原告が、2019年1月22日、被告に対し、法に基づき、別紙請求文書目録2記載の実験ノートの開示を請求した(甲3。法人文書開示請求書控)のに対し、被告は、2019年2月18日付「法人文書の開示をしない旨の決定について」(甲4。以下「本件関連処分」という)により、原告が開示を求めた法人文書を全部不開示としたが、その不開示理由は、法人文書に掲げる実験ノートについて、組織共用性を認め法人文書と認められるとした上で、法第5条第4号ホの不開示事由に該当することを理由としたものである。すなわち、被告は被告職員が職務の中で被告の実験施設を使用して実施された実験において作成した実験ノートについて、一方ではこれが組織共用性を認めて法人文書であることを認めながら、他方では組織共用性を認めず法人文書であることを否定するという相反する判断を下している。この点も含め、上記決定の法人文書が全部不開示とされた判断は、法の解釈、適用を誤ったもので違法である。

 3 結語
   よって、原告は本件処分についての取消しを求めて本訴に及ぶ次第である。


証 拠 方 法

1 甲第1号証   2019年3月28日付法人文書開示請求書控
2 甲第2号証   2019年4月23日付法人文書の開示をしない旨の決定について(通知)
3 甲第3号証   2019年1月22日付法人文書開示請求書控
4 甲第4号証   2019年2月18日付法人文書の開示をしない旨の決定について(通知)
 

付 属 書 類

1 甲号証写し          各1通
2 証拠説明書(1)         2通
3 代表者事項証明書      1通
4 訴訟委任状          1通
以 上


請 求 文 書 目 録 1



本件情報公開請求日までに実施された下記の実験に関する実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート、ラボノート、ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験により得られた生データ(raw data)及び実験条件を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)。
記
1998年より開始されたディフェンシン遺伝子を導入した組換えイネ系統の開発(作成、調製、作出を含む)及びその検証に関する実験のうち、抗菌活性実験[1]または耐病性評価実験[2](論文「抗菌蛋白質ディフェンシンの多様な機能特性」(「化学と生物」Vol.43 NO4) 231頁左段3行目以下記載の実験、平成19年1月4日受付論文「大腸菌で発現させたカラシナ由来ディフェンシン(Bj-AFP1)の抗菌活性」(中央農研研究報告)に記載の実験、特開2003-88379号公報4枚目の図3及び4に実験結果が示された実験及び貴法人ホームページの「中央農業総合研究センター 2003年の成果情報」中の記事「我が国独自の組換え技術を統合した複合病害抵抗性組換えイネの作出法」[3]に記載の実験を含む)
以 上


請 求 文 書 目 録 2



下記の2つの研究の中で、2012年4月3日から本件情報開示請求日までに実施された実験に関する実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート、ラボノート、ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験により得られた生データ(raw data)及び実験条件を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)。
記
1、 2014年3月12日に農研機構のホームページ(※1)に公開されたプレスリリース「平成26年度遺伝子組換えイネ栽培実験について」で紹介された「カルビンサイクル強化イネ」の開発および栽培の研究
(※1)
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nics/051255.html
2、2018年4月6日発行の農研機構のホームページ(※2)に公開されたプレスリリース「(お知らせ) 平成30年度シンク能改変イネの第一種使用等による栽培に関する実験計画書の公表及び説明会の開催」で紹介された「シンク能改変イネ」の開発(栽培実験計画書に記載された2015年実施のアグロバクテリウム法による遺伝子導入実験及び2016年実施の閉鎖系温室にて生物多様性影響調査で実施された実験も含む)および栽培の研究
(※2)
http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nias/080450.html


以 上









[1] タンパク質ディフェンシンそのものが様々な病原菌に対して増殖を抑制する効果があるかを検証する実験をいう。
[2] ディフェンシンの遺伝子を組み込んだ組換えイネを栽培したものが様々な病原菌に対して増殖を抑制する効果があるかを検証する実験をいう。

[3] URLはhttp://www.naro.affrc.go.jp/project/results/laboratory/narc/2003/narc03-09.html

2018年6月13日水曜日

【報告】2018.6.8木暮意見書(4)等の証拠提出に関する準備書面(1)の提出と木暮教授の証人尋問の申請

2018年6月18日、木暮意見書(4)その他の証拠提出に関する準備書面(1)と木暮教授の証人尋問の申請を提出しました。

以下、準備書面(1)の全文です。そのPDFは-->こちら
 木暮教授の証人尋問申請の書面は-->こちら

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平成30年(行コ)第91号 法人文書不開示処分取消請求控訴事件   
控訴人  レペタ・ローレンス
被控訴人  国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構

控訴人準備書面(1)
2018年 6月 7日

東京高等裁判所第14民事部  御中

控訴人訴訟代理人 弁護士  古 本  晴 英

同        弁護士   柳原 敏夫

                            同       弁護士  神 山  美智子

同       弁護士  船  江   莉  佳

目 次

1、書証の提出


 当審において、以下の2つの書証を提出する。
①.木暮意見書(4)(甲68)
 実験ノートの作成・利用・保存の実態及び抗菌活性実験・耐病性評価実験の実施者は誰か等について、原審において3通の意見書(甲6・同7・同64)を作成・提出した木暮一啓東京大学教授((以下、木暮教授という)が、原判決の事実認定に対する意見を述べた意見書(4)を作成したので提出する。
 その趣旨は、木暮教授が《これまで30年余り、第一線の研究者として世界とやりとりをしてきており、学術の世界の国内外の潮流を完全に理解し、活動してきた》観点からいわば「学術研究の常識」に沿って作成し提出した意見書に対して、原判決は《何等かの形で検討された形跡が全く見られない》という驚きについてであり、
そこで、再度、木暮教授が確信する「学術研究の常識」に沿って、本研究プロジェクトにおける抗菌活性実験・耐病性評価実験(以下、総称して本実験という)の実施者は誰か及び実験ノートの作成・利用・保存の実態について検討した時、原判決の本実験の事実認定及び「組織共用文書」該当性の判断は経験則に違反し到底維持できないものであることを明らかにしたものである。
 木暮意見書(4)が指摘した「学術研究の常識」の問題を法的に言えば、
第1に、本実験の事実認定及び「組織共用文書」に適用する具体的事実の認定において適用すべき「学術研究の常識」とは何か、言い換えると特殊専門的な経験則とは何かという問題であり、
第2に、本実験の事実認定及び「組織共用文書」に適用する具体的事実の認定に当該特殊専門的な経験則を正しく適用した場合いかなる結果となるかという問題である。
 
②.論文「Mitotic progression following DNAdamage enables pattern recognition within micronuclei」(nature〔2017年8月24日Vol.548〕掲載。甲69)

 近時のnatureやCellといった一流誌の論文では、文末のAuthor Contributions(著者の貢献)の欄に、共著者のうち誰が何を分担したのかを明記することになっている。それによれば、単に「実験材料を提供」又は「実験方法・評価方法を指導・伝授」にとどまる者は特別な場合を除いて共著者にはなれず、Acknowledgement(謝辞)の欄に記載される。それは、原審で甲84木暮意見書(3)でも次のように述べた通りであるが、
《菌など実験の材料の提供者は、例えばその菌が世界で初めて分離したもの、あるいは他の株には見られないような特殊な性質を持っている、あるいは提供者が作りだした特有の性質を示す遺伝的変異体、といった”特殊性を作りだした提供者”以外は、論文の共著者として名前は載らず、謝辞でその旨を述べるのが普通です。》(3頁2~6行目)
 今般、その実例として、natureの論文(甲69)を提出する。前記論文の文末のAuthor Contributions(著者の貢献)には、イニシャルで誰が何をしたか明示されており、誰が研究を立案したか、誰が論文を実際に執筆したか、誰がどの実験を行い、どのデータ(どの図表)を出したか分担役割が示されている。他方、Acknowledgement(謝辞)には、研究に協力してくれた人、実験材料を供与してくれた人、資金提供元などに対する感謝が述べられるが、この人たちは論文の著者にはならない。これが科学界のスタンダードすなわち「学術研究の常識」である。

2、人証の申出


 もとより、本件で問題になる経験則とは日常的な経験則ではなく、自然科学の特殊専門的な学識経験に属する経験則である。そのため、標準的裁判官が知っていることを期待できず、本件の特殊専門的な経験則の存在についてはこれを証明する必要がある。
この特殊専門的な経験則について、控訴人は控訴理由書で、原判決の誤りとして次の経験則違反を指摘した。
①.事実問題として、原判決の事実認定が経験則に違反すること。
 すなわち、平八重らは本実験を実施したかという事実認定において適用すべき特殊専門的な経験則の内容を正しく認定していないこと、及び当該特殊専門的な経験則を本実験の事実認定に正しく適用しなかったこと。
②.法律問題として、原判決の「組織共用文書」該当性の判断が経験則に違反すること。
 すなわち、「組織共用文書」に適用すべき具体的事実の認定において適用すべき特殊専門的な経験則の内容を正しく認定していないこと、及び当該特殊専門的な経験則を具体的事実の認定に正しく適用しなかったこと。
そこで、当審においては、上記①及び②の事実認定において適用すべき特殊専門的な経験則の内容とは何か及び当該特殊専門的な経験則を上記事実認定に正しく適用するといかなる結果となるかを証明する必要がある。この立証のために、原判決が採用した特殊専門的な経験則の誤りを指摘し、正しい特殊専門的な経験則とは何かを意見書(4)で示した木暮教授から法廷で直接、知見を確認することが必要かつ有益である。そこで、今般、木暮教授の証人尋問を申請した次第である。
以 上




【報告】2018.6.8一審判決の事実認定等の問題点を指摘した木暮意見書(4)を提出

一審判決の事実認定等の問題点を指摘した東京大学の木暮一啓教授の意見書(4)を2018年6月8日、高裁に提出しました。

今回の木暮意見書のエッセンスは次のくだりに要約されています。

 一読して驚かされたのは、一審裁判所に提出した私の意見書(甲6・同7・同64)が何等かの形で検討された形跡が全く見られない、ということです。裁判というのはこういうものなのでしょうか。

 人権の最後の砦である裁判所は、この問いにどう応えるのでしょうか。
 以下、意見書(4)の全文です。そのPDFは-->こちら 

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意見書 (4)
  

木 暮 一 啓

2018年6月6日

目 次
第1、略歴
第2、はじめに
第3、「学術研究の常識」について
1、論文の「共著者」に名を連ねた人は何をした人か
2、研究プロジェクトをどのように進めるか
3、実験計画書・実験報告書(甲48の10等)の「実験従事者」の意味
4、実験ノート
第4、終わりに

このたび、一審判決を読む機会がありましたので以下にその感想を陳述します。

第1、略歴
 私の意見書(甲6)の第1に記載の通りです。
 2018年3月31日に東京大学大気海洋研究所を定年退職しましたが、現在客員教授として引き続き研究に携わっています 。

第2、はじめに
一読して驚かされたのは、一審裁判所に提出した私の意見書(甲6・同7・同64)が何等かの形で検討された形跡が全く見られない、ということです。裁判というのはこういうものなのでしょうか。
私はこれまで30年余り、第一線の研究者として世界とやりとりをしてきており、学術の世界の国内外の潮流を完全に理解し、活動してきたつもりです。上記の意見書もそうした観点からいわば「学術研究の常識」に沿って書いています。その意見書がほぼ無視されたということは、今回の判決が「学術研究の常識」からかなり逸脱している、ということに他なりません。その意味で、後に“前時代的な判決”と評価されても仕方ないでしょう。
 判決を読み、「学術研究の常識」について中でも強く感じたことを以下に書き出します。
 
第3、「学術研究の常識」について
1、論文の「共著者」に名を連ねた人は何をした人か
論文の「共著者」に名を連ねた人は何をした人かという問題は、ある研究プロジェクトへの参画をどのようにして判断するか、という問題です。
もし学術論文や報告書の共著者・執筆者の中に名前が入っていれば、その人はその論文・報告書の研究に主体的に関わった、と考えるのが基本的な見方です。つまりその研究内容、実験データなどに責任をもつことになり、例えばもし後になってその論文の内容に何らかの形の疑義が出た場合、その問題から免れ得ない。逆に言えば、名前が入っている以上、実験材料を提供しただけで実験そのものには関わっていない、というような言い訳は許されません。
従って、論文(乙17)に記載された抗菌活性実験は、論文の「共著者」であり植物病理学の専門家である平八重氏が担当したと考えるのが常識です。単に材料を提供しただけで自分は関わっていない、という考えは通用しません。
これに対し、平八重氏は、抗菌活性実験はマイクロプレートリーダーを使った実験であるから、分子生物学分野の極めて一般的な実験であり、植物病理学の実験ではないと述べています(乙16陳述書。6頁下から11行目以下)。
確かに、マイクロプレートリーダーの操作自体はそれほど難しい機器ではありません。操作の基本は大腸菌でもカビでも同じでしょう。しかし、難しいのは機器の操作ではなく、抗菌活性実験を行うための実験系の設定にあります。例えば、いもち病菌の濃度を当初どの程度に設定すればよいか、他方、ディフェンシンの濃度をそれに合わせてどの程度に設定するのが適当か、実験が数日に渡る場合には、その間の培養条件の設定、どのような結果が出た時点で実験を終了とするべきかという判断、実験データの整理と統計処理を使ったその判定等々をどのように決めたらよいのか。これらは単にマイクロプレートリーダの操作が分かる者だからいってできることではありません。そのためには、いもち病菌等の植物病理学の専門知識、植物病理に関する経験に基づくノウハウが必要になります。つまり、抗菌活性実験も植物病理学の専門知識・ノウハウを備えた者が実施することが必要なのです。単にマイクロプレートリーダの操作が分かるからということで、植物病理学の専門知識・ノウハウを備えていない者に抗菌活性実験を任せるということはあり得ません(甲64木暮意見書(3)3~4頁)。
 
2、研究プロジェクトをどのように進めるか
(1)、現代の自然科学系の研究プロジェクトの殆どは複数の研究員あるいは技術者による研究プロジェクト(以下、共同研究という)です。一般に、どんな共同研究でも、その目的の達成のためには、そこに関わる研究員あるいは技術者がチームを組み、相互の役割分担を明確にしながら、連絡を取り合い、あるいは直接会って議論を重ねながら、無駄なく必要な実験や調査を行うことが基本です。研究プロジェクトでは時間的なロスを省きながら再現性の高いデータを得ることが求められ、そのためには、重要な部分はその部分の専門分野の技術を持つ人が一貫して担当し、たとえその人が複数の研究員とでやったとしても一緒に実験を行って技術の一貫性を確保するのが基本です。
(2)、従って、抗菌活性実験も耐病性評価実験も植物病理学の専門知識・ノウハウを備えた者が実施する実験ですから、共同研究でこれらの実験を行なう場合、植物病理学の専門家が実施することが必要であり、合理的です。
 実際にも、平八重氏の陳述書には(乙16。9頁4)、「発病の評価については、どのようなものを病斑とみなすのか、病斑の面積をどのように評価するのかなど、豊富な経験に基づく知識や技術がないと適切に行うことができません。」と書かれています。私自身、微生物の増殖パターンなどについてかなりの経験があるので断言できるのですが、この陳述には極めて説得力があります。他方で、こうした発病の評価を植物病理学の素人に任せることは技術的な観点からも、また一つの研究プロジェクトで再現性のある一貫したデータを取るという観点からもあり得ません。
 さらに、屋内の研究施設内におけるカビの実験は植物病理学の専門家でないと、カビの素人では困難ですから、共同研究でカビの実験を行なう場合、植物病理学の専門家が実施することが必要であり、合理的です。被控訴人が行なったディフェンシン遺伝子を導入した遺伝子組み換え稲の開発・栽培の研究プロジェクト(以下、本研究プロジェクトという)で屋内で実施されたカビ(いもち病菌)を使った抗菌活性実験・耐病性評価実験も、植物病理学の専門家である前任の中島敏彦氏、後任の平八重氏・園田氏が実施することが必要であり、合理的です。
(3)、前任者の実験データ等の引継ぎ
 既に提出した私の意見書(3)(甲64。8~9頁9)で詳しく述べましたが、学術の世界での常識から、一つの研究プロジェクトの途中で実験担当者が交代した場合、前任者が残した実験データなどを後任の研究者に引継ぎをしない、ということはあり得ません。従って、「引継ぎをしていなかった故に、前任者と後任者の実験等への関わりかたが同一ではなかった。それゆえ、たとえ前任者が抗菌活性実験・耐病性評価実験に関与したとしても後任者には関係がない」という考え方も成り立ちません。
 
3、実験計画書・実験報告書(甲48の10等)の「実験従事者」の意味
 2002年3月から実施された「組換えDNA実験指針」で、「実験従事者」というのは第1部総論、第1章総則、第2定義20で「組換え実験の実施に携わる者をいう」と定義されている通り、実験の実施に携わる者を意味します。「組換えDNA実験指針」、そしてこの指針が法制化されたいわゆるカルタヘナ法に基づいて実施された本研究プロジェクトの「実験計画書・実験報告書」(甲48の10等)の「実験従事者」も実験の実施に携わる者を意味します。他方、実験施設の管理をする場合は「管理者」として、実験を行わない場合には「見学者」として入室するのが通常のやり方です。従って、「実験計画書・実験報告書」の「実験従事者」に記載された平八重氏らはその計画書・報告書に書かれた実験の実施に携わった者です。
これに対し、平八重氏らは「実験従事者」とは、自ら実験を行う者に限らず、実験の材料を提供したり、実験の手法を伝授したり、実験に使用される施設を管理したりするといった形の関与であっても記載することがあり、あるいは、実際に実験を行う可能性があるにとどまる者についても記載することがあったと述べています(乙12。証人大島、証人平八重)。
しかし、「実際に実験を行う可能性があるにとどまる者」ではこれが具体的に誰を指すのか、その意味は不明ですし、さらにそのような者を「記載することがあった。」というのもどのような場合に記載するのか、或いはしないのかも曖昧です。本来、こうした実験施設には実験の実施に関する明確な規定があるはずですが、平八重氏らの証言によれば、本研究プロジェクトでその明確な規定に準拠した対応をしたとは考えにくいし、かといって、その規定がないということも考えにくい。こうした極めて曖昧な平八重氏らの証言に基づいて裁判所が「実験計画書・実験報告書」(甲48の10等)の「実験従事者」の意味を被控訴人の言うままに判断するのは合理的とは言えません。
 
4、実験ノート
(1)、実験ノートの性質について 
 現在、実験の実施やデータに関わるあらゆる資料はその研究機関に所属するとの考え方が基本となっています。従って、研究機関に所属する実験データが記録された実験ノートを「専ら当該職員の判断で処分できる性質の文書である」という考え方は成立する余地がありません。もし、職員個人の自由な処分を認めたら、「実験データは研究機関に所属する」ことを否定するにひとしいことになります。
(2)、実験ノートの作成目的
 既に提出した私の意見書(3)(甲64第3、1。4~5頁)で詳しく述べましたが、そこで実験ノートの作成目的について次のように指摘しました。
《自然科学系の研究者がやることというのは、一般に、仮説を立て、それに基づいて実験計画を立て、実験を実施し、データを得て記録し、その得られたデータから何が言えるか、とりわけ仮説が検証されるかどうかを考察し、それらをまとめて論文として発表することです(勿論、仮説のない観察的な論文もあります)。多くの研究者は、研究の大部分を実験ノートの中に記載しています。つまり研究の最も本質的な部分は実験ノートの中に凝縮されているとも言える》(4頁下から11~4行目)
 これに対し、大島氏は、法廷で、実験ノートを作成する目的は「備忘のため」あるいは「他人にそのまま見せることを前提とせずに」と証言しました。
しかし、大島氏のこの証言は実験ノートの本質からかけ離れています。なぜなら、学術の世界は、再現性のあるデータの蓄積の上に成り立っていて、それをいわば保証するのが実験ノートだからです。つまり実験ノートは「忘れるといけないからつける」のではなく、こうした学術の基本を成り立たせ、結果の客観性を保証するためにつけるのです。なおかつ、データに疑義が生じた場合には、4年前のスタップ細胞問題でもそうだったように、実験ノートを他人にそのまま見せ(公開)、検証することによってのみデータの疑義に対する結果が保証されるのです。
(3)、実験ノートの作成状況(ノートの購入者の問題)
 「実験ノートを誰が購入したのか」という論点は全く無意味です。なぜなら、購入者によって実験ノートが本来持っている重要性、意義に変わりがあるわけではないからです。つまり実験ノートに記されている内容はそれを購入した者に帰するものではありません。実際、現在でも多くの研究機関は必ずしも機関としてノートを購入、供給してはおらず、研究者に購入を一任しています。これは研究者によってノートの体裁などに好みがあるからです。
   
第4、終わりに 
 以上、私が信ずる「学術研究の常識」について書き出しましたが、微妙な点で分かりにくいところがあったかもしれません。そうしたことについては、さらに法廷で、私の言わんとすることを分かりやすく証言し、また不明点・疑問点について裁判官や被控訴人代理人から直接お尋ねいただけたら、忌憚のない証言をする予定です。
以 上