平成26年(行ウ)第521号 法人文書不開示処分取消請求事件
原 告 レペタ・ローレンス
被 告 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構
原告準備書面 (5)
2015年10月22日
東京地方裁判所民事第38部B1係
御中
原告訴訟代理人 弁護士 古 本 晴 英
同 弁護士 柳 原 敏 夫
同 弁護士 神 山 美智子
同 弁護士 船 江 理 佳
目 次
第1、事案解明義務について
1、問題の所在 2頁
2、「証拠の偏在など」の事案における事案解明義務 3頁
第2、事案解明義務の本件への適用
1、本件裁判における事案解明義務の有無 4頁 2、本件裁判における事案解明義務の内容(予備的考察) 5頁
3、本件裁判における事案解明義務の内容(本論) 8頁
第3、請求の趣旨の変更 11頁
第4、被告準備書面(3)に対する反論 13頁
本書面は、前回期日において、裁判所より原告に出された宿題を検討した結果である。第1、事案解明義務については、宿題の「実験担当者の具体的な氏名を明らかにする必要性について、本件訴訟上の位置づけ」を検討したものである。
第1、事案解明義務について
1、問題の所在
情報公開請求に対する不開示決定の取消訴訟において、対象文書の存在については取消しを求める原告が主張・立証責任を負うとされている(最判平成26年7月14日沖縄返還「密約」文書開示請求事件上告審判決。判例時報2242号54頁)。
ところで、本件は最先端の科学技術(遺伝子組み換え技術。以下GM技術と略称)をめぐる情報公開請求に対する不開示決定の取消訴訟であり、一般の取消訴訟には見られない際立った特徴、すなわち本実験の専門的、科学的情報はすべて被告が把握・管理するという「証拠の偏在」と言われる特徴を有している。
その上、被告は独立行政法人として、自ら開発したGMイネの実験の「安全性」について国民に対する説明責任を負っている(独立行政法人等の保有する情報の公開に関する法律1条参照)。
それゆえ、このような際立った特徴を有する本件の訴訟審理の過程において、両当事者の対等を前提とする主張・立証責任を機械的・形式的に当てはめて事案の解明を行なうことは、現実の原被告間の上記の圧倒的な力量の差を無視する点で妥当ではないばかりか、独立行政法人の国民に対する説明責任という責務を忘れた立場である。よって、訴訟手続の基本原則である武器対等の原則に照らしても、科学技術をめぐる情報公開請求に対する不開示決定の取消訴訟における事案解明の責任は実質的公平を実現するように修正されなければならない。
そこで、本件裁判において事案解明の責任はどのように修正されるべきか、以下、検討する[1]。
2、「証拠の偏在など」の事案における事案解明義務
一般に、「事案解明義務」とは、主張・立証責任を負わない当事者に訴訟審理の場で主張・立証を要求する規律を意味するとされている(高橋宏志『重点民事訴訟法(上)』509頁以下)。
憲法14条は法の下の平等を保障し、それは単に形式的平等ではなく、実質的平等を意味する。この法の下の平等を訴訟手続において具体化したものが武器対等の原則であり、公平な裁判実現のための基本原則である。そこで、事案解明に必要な証拠の殆どを一方当事者が握っている「証拠の偏在」の場合には、武器対等の原則に照らし、当該当事者に原則として「事案解明」の義務を課すべきである。
この理は平成4年10月29日伊方原発訴訟最高裁判決(以下、本最高裁判決という)で次の通り明らかにされた。
本最高裁判決
|
|
一般原則
|
被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、本来、原告が負うべきものと解される。
|
その修正
|
被告行政庁の側において、まず、その依拠した前記の具体的審査基準並びに調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが事実上推認されるものというべきである。
|
本最高裁判決は、事案解明の責任に関する一般原則を修正した理由について次のように述べる。
《当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると》
つまり、「証拠の偏在などの点」が修正の根拠である、と。
では、「証拠の偏在などの点」とは具体的に何を意味するか。この点、本最高裁判決の評釈として知られる竹下守夫「伊方原発訴訟最高裁判決と事案解明義務」(甲34「民事裁判の充実と促進」中巻所収)は、《本件最高裁判決が、‥‥これまでの下級審に散発的に現れていた思想の発展と捉えることを意味する》(14頁「4 従来の下級審判例との連続性」)と述べ、本最高裁判決と連続する下級審判例を紹介する。この記述を参照すれば、「証拠の偏在など」とは具体的に次のことを意味すると解するのが適切である[2]。
①. 事案解明に関する資料(証拠)の偏在
②.原告に比べ、被告の専門的知識上の優位
③.許可処分の瑕疵により生ずるおそれのある原告らの生命・身体等への影響の甚大さ
すなわち、本最高裁判決が当該科学裁判の事案解明の責任に関する一般原則を修正したのは、上記の3つの事情が存在したからである。
第2、事案解明義務の本件への適用
1、本件裁判における事案解明義務の有無
では、本件裁判において上記の3つの事情が認められるであろうか。結論としてすべて認められる。以下に述べる通り、本件裁判は次の特色を有するからである。
①.
事案解明に関する資料(証拠)の偏在
本実験の対象である本GMイネは被告が初めて作り出したGM生物であり、原告がこの実験に関する専門的、科学的情報を入手することは不可能であり、それらの情報はすべて被告が保持していた。
②.原告に比べ、被告の専門的知識上の優位
被告は本GMイネを世界に先駆けて開発した専門家集団を擁しており、これに対し原告は一般市民である。本GMイネの実験に関する専門的知識に関し、被告が圧倒的優位にあることは言うまでもない。
③.本実験の瑕疵により生ずるおそれのある原告の生命・身体等への影響の甚大さ
本件で原告が最も懸念するディフェンシン耐性菌問題は、それが発覚した時点では、交差耐性[3]により、カラシナにとどまらず、ディフェンシンを産生する全てのヒト、動植物及び昆虫がその被害に受ける怖れがあり、ヒトの健康被害、生態系、生物多様性に深刻な影響を及ぼす。その脅威の深刻さは抗生物質による耐性菌問題の比ではない(その桁違いの危険性を指摘した2006年作成の木暮一啓東京大学教授の意見書(2)[4]6頁参照)。すなわち、本実験により生ずるおそれのある原告の生命・身体、生態系、生物多様性等に及ぼす影響の甚大さは明らかである。
従って、本件裁判においても、本最高裁判決と同様、被告に事案解明の責任を認めるべきである。
2、本件裁判における事案解明義務の内容(予備的考察)
では、本件裁判の訴訟審理の過程において、事案解明の責任はどのように具体化すべきか。
その吟味のための準備作業として、訴訟審理の過程における事案解明の責任を明らかにした行政処分の取消訴訟の一般論と特許法、実用新案法、意匠法、商標法及び著作権法における積極否認の特則を取り上げ、比較検討する。
(1)、行政処分の取消訴訟の一般論
この点、本最高裁判決と並んで以下の論述が参考となる(藤山雅行「行政訴訟の審理のあり方と立証責任」(行政争訟「新・裁判実務大系」2004年)298頁による)。
一般に、行政処分の取消訴訟において、
(a).原告は、訴状で、取消を求める行政処分を特定し、当該処分が誤っていると考える根拠を「簡略に」主張すべきである。
(b).被告は、答弁書等において、当該処分に至る経緯、行為の内容及び法的根拠を「具体的に」主張すべきとされる。
その理由は、当該処分を行った行政庁は、
(ⅰ).事前にその法的根拠を検討した上で行為すべきものである上、
(ⅱ).国民に対して自己の行為についての説明責任を負っているからである(その根拠は行政機関の保有する情報の公開に関する法律1条参照)。
(2)、特許法等における積極否認の特則
特許法、実用新案法、意匠法、商標法及び著作権法(以下、特許法等という)においては、侵害訴訟の争点解明・審理促進等の観点から、民事訴訟規則が準備書面一般の記載事項として否認の理由を求める旨規定しているのに対し(79条3項)、原告(権利者)が主張する侵害行為の具体的態様を否認するときは、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない旨の規定を設け、被告に侵害行為の特定に積極的に関与させている(以下の特許法104条の2。実用新案法30条、意匠法41条及び商標法39条で特許法104条の2を準用。著作権法114条の2)。
特許法第104条の2
「特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟において、特許権者又は専用実施権者が侵害の行為を組成したものとして主張する物又は方法の具体的態様を否認するときは、相手方は、自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならない。ただし、相手方において明らかにすることができない相当の理由があるときは、この限りでない。」
これは、訴訟審理の過程において具体的な争点を明らかにするために、主張・立証責任を負わない当事者に協力義務を課したもので、その意味で、事案解明義務のうち、事実の特定に関する争点解明義務を具体化したものである。
では、なぜこうした特則が認められたのか、その理由は「証拠の偏在」という以下の事情による。
特許権侵害訴訟等において侵害行為の事実は本来、原告に主張・立証責任があるが、実際の侵害行為は被告(侵害者)固有の技術によるものであるため、その証拠が入手困難な原告にとって侵害行為の特定は困難な場合が多い。
こうした「証拠の偏在」のもとで特許権侵害訴訟等の争点解明・審理促進等の観点から、法は民事訴訟規則における積極否認の規定の考え方を一歩進め、原告(権利者)の侵害行為の主張に対し、これを否認する被告は侵害行為の特定のために自ら自己の行為の具体的態様を明らかにしなければならないとして、武器対等の原則と公平な裁判の実現を図ろうとしたものである(甲35産業財産権法(工業所有権法)の解説【平成11年法律改正】第4章 特許等の権利侵害に対する救済措置の拡充39~44頁)。
そうだとしたら、この理はひとり特許法等の訴訟に限定される必然性はなく、原告が主張・立証責任を負う事実について「証拠の偏在」のため原告にとって当該事実の特定が困難である反面、被告にとってはそれが容易である場合には、事案の争点解明・審理促進等の観点から、特許法104条の2、著作権法114条の2などに準じて、原告(権利者)の当該事実の主張に対し、これを否認する被告は当該事実の特定のために自ら当該事実の具体的態様を明らかにすべきである。
3、本件裁判における事案解明義務の内容(本論)
(1)、本件裁判における具体化(総論)
では、情報公開請求に対する不開示決定の取消訴訟である本件裁判の訴訟審理の過程において、事案解明の責任はどのように具体化すべきか。以上の予備的考察を踏まえ、まず、総論としてこの点を述べる。
(a).原告は、訴状等で、取消を求める不開示決定を特定し(対象文書の物理的存在も含めた文書の特定)、当該決定が誤っていると考える法的根拠(組織共用文書性及び不開示事由該当性の有無)を「簡略に」主張すべきである。
(b).原告主張を否認する被告は、答弁書等において、対象文書の物理的存在も含めた対象文書の特定について及び当該決定の法的根拠(組織共用文書性及び不開示事由該当性の有無)を「具体的に」主張すべきである。
次にこの定式化を踏まえて、各論点ごとに事案解明義務を具体化する。
(2)、本件裁判における具体化(各論1――対象文書の特定について――)
ア、
実験ノートの特質を踏まえた「文書の特定方法」
(ア)、対象文書の特定については、(1)で前述したとおり、
(a).原告は訴状等で、取消を求める不開示決定を特定、つまり対象文書の物理的存在も含めた文書を特定するために「簡略に」主張すべきである。
(b).これに対し、原告主張を否認する被告は、答弁書等において、対象文書の物理的存在も含めた文書を特定するために「具体的に」主張すべきである。
(イ)、では、実験ノートを特定する主張において、具体的に何が「簡略に」で、何が「具体的に」か。
この点、通常の対象文書の場合、これを特定するための方法として、その文書の内容又はそのエッセンスを表現した表題等に着目すればよい。これに対し、実験ノートはその実例(甲25の1。99~100頁)やその解説(甲18.同25)からも明らかな通り、その内容である実験データに着目しても、また実験の表題等(個別の実験ごとに表題をつけるとは限らない)に着目しても特定は容易に可能であるとは限らない。また、事件番号で特定する裁判の事件のように個別の実験ごとに識別番号を振るわけでもない。そもそも実験ノートとは、通常、特定の研究プロジェクトで次々と実施される実験の結果である生データを、実験担当者がノートに時系列に記録していくものである。この実態を踏まえれば、実験ノートは、
「当該研究プロジェクトで、実験担当者が作成した実験ノート」
という2つの要素(研究プロジェクト名と実験担当者名)を指標にして特定するのが最も現実的である。現に、科学論文の不正が問題となるとき、関係研究機関は、問題の研究プロジェクトの実験担当者に指示して、当人が作成した実験ノートを全て提出させるという方法を取っている(2014年4月1日、「STAP細胞」事件で、理化学研究所は、小保方晴子氏に「STAP細胞」プロジェクトで実施した実験で作成した実験ノートの提出を求め、3年間で2冊の実験ノートが作成、提出されたと発表した。2014年4月、山中伸弥京都大教授の「論文疑惑」問題で、京都大学は山中教授に当該研究で実施した実験で作成した実験ノートの提出を求め、段ボール5箱分の実験ノートの提出を受けた〔2014年4月28日日本経済新聞〕)。
本件裁判でも、裁判所は、前回期日に、被告職員の矢頭治氏及び平八重一之氏の担当した実験の実験ノートは本裁判の処分取り消しの範囲に含むかどうかを原告に確認を求めたのも、実験担当者を指標にして実験ノートを特定することが実験ノートにおける文書特定の方法として最も現実的な方法だという前提に立っているからである。
イ、本件における実験ノート(いわゆる川田実験ノート)の特定方法
そこで、原告は対象文書のうちいわゆる川田実験ノートを特定するにあたって、上記の特定方法に従って、
『本研究プロジェクトの「開発」で実施した実験を担当した川田氏が作成した実験ノート』
と主張した(原告準備書面(1)7頁以下)。これに対し、被告は否認し、川田氏は実験ノートを作成していないと答弁した(被告準備書面(3)7頁以下)。
そうだとしたら、被告は、前述した争点解明義務の観点から、実験ノートの上記の特定方法に沿って、実験ノートの特定を具体的に明らかにすべきである。すなわち本研究プロジェクトの「開発」で実施された実験の担当者すなわち実験ノートの作成者が誰かを明らかにすべきである。
(3)、本件裁判の具体化(各論2――組織共用文書性の立証について――)
ア、実験ノートの特質を踏まえた「組織共用文書性の立証方法」
(ア)、本件実験ノートが組織共用文書であるか否かについては、(1)で前述したとおり、
(a).原告は、訴状等で、取消を求める不開示決定が誤っていると考える法的根拠(組織共用文書性)を「簡略に」主張すべきである。
(b).これに対し、原告主張を否認する被告は、答弁書等において、当該決定の法的根拠(組織共用文書性)を「具体的に」主張すべきである。
(イ)、では、組織共用文書性の有無の場合、具体的に何が「簡略に」で、何が「具体的に」か。
この点、実験ノートは、通常の法人文書と異なり、文書作成者自身が文書作成後も引き続き実験ノートを保管(直接占有)するのが通常であるため、当該文書が組織共用文書性を備えているかどうかを証明するにあたっては、作成者にして保管者である実験ノート作成者に「文書の作成状況、利用状況、保存又は廃棄状況」を、直接、確認するのが最も簡明である。
第一次実験ノート裁判でも、組織共用文書性を証明するために、実験ノートの作成者であると原告が主張した被告職員2名を証人として尋問して、「文書の作成状況、利用状況、保存又は廃棄状況」を、直接、確認した。
イ、本件における組織共用文書性の立証方法
そこで、原告は対象文書のうちいわゆる川田実験ノートの組織共用文書性を証明するため、
『本研究プロジェクトの「開発」で実施した実験を担当したのは川田氏である』
と主張した(原告準備書面(1)7頁以下)。これに対し、被告は否認し、川田氏は実験ノートを作成していないと答弁した(被告準備書面(3)7頁以下)。
もし川田実験ノートの作成者が川田氏以外だとしたら、被告は、前述した事案解明義務の観点から、川田実験ノートの組織共用文書性を証明するために、川田実験ノートの作成者すなわち川田実験ノートに記録された生データの実験の担当者が誰かを具体的に明らかにすべきである。
そこで明らかにされた川田実験ノート作成者に「文書の作成状況、利用状況、保存又は廃棄状況」を、直接、確認すれば、川田実験ノートが組織共用文書性を備えているかどうかは最も確実に証明することができるのである。
第3、請求の趣旨の変更
1、請求の趣旨第1項を下記の通り変更する。
記
1 被告が原告に対し平成25年12月6日付でした法人文書不開示処分のうち全部不開示とされた別紙文書目録記載の各文書の部分を取消す。
2、変更の理由
本件の取消訴訟の対象文書から、被告職員の矢頭治氏及び平八重一之氏が作成した実験ノートを除外する趣旨である。
2、対象文書の特定に関する原告主張の補充
(1)、原告は、これまで、訴状別紙請求文書目録1記載の実験に関しても、その実験の生データを記録した実験ノートを特定するために、《すべての実験実施者が作成したすべての実験ノート》(原告準備書面(4)2頁2、(1))と主張してきたが、今般、次の通り、実験実施者名を一部明示して主張する。
訴状別紙請求文書目録1記載の実験に関して、下記の6名に限らずすべての実験担当者が作成したすべての実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート。ラボノート。ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験の生データ(raw data)を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)。
記
ア、川田元滋
イ、及川鉄男
ウ、 松村葉子
エ、
福本文良
オ、 S.Kawasaki
カ、
F.Takaiwa
(2)、上記6名はいずれも本研究プロジェクトの「開発」がスタートして約2年の研究成果として発表された最初の論文に論文執筆者として英語で名を連ねている者たち、すなわち論文にその成果を発表した実験を担当した者たちである(甲31.4枚目の5-4発表論文の論文①〔2000年〕)。甲31は、独立行政法人「科学技術振興機構」が、国や独立行政法人の研究プロジェクトを支援するために技術者を派遣する「重点研究支援協力員派遣事業」を行なっており[5]、これに対し被告は「イネの耐病性等機能増強に有用なゲノム遺伝子の単離・利用と改変機能の検証」という研究プロジェクトで1998年度の事業に応募し採用され、派遣技術者の支援を受けながら実験を重ね、2年余り後に中間報告をしたものである。1頁の3に「科学技術振興機構」から被告に派遣された技術者8名の氏名、専門分野及び派遣期間が記載されている。この氏名と上記論文執筆者の英語表記とを照らし合わせると、うち2名が支援協力員であることが分かり、上記の通り日本語表記することができた。
(3)、被告は、対象文書の特定に関する原告の上記主張に対し、認否をする必要があるがその際、原告主張を否認する場合には、前述した事案の争点解明・審理促進等の観点から、自ら積極的に、訴状別紙請求文書目録1記載の実験に関して、すべての実験担当者の氏名を明らかにすべきである。
第4、被告準備書面(3)に対する反論
その詳細は次回、改めて行なうが、さしあたり、実験ノートについて次の点だけ反論する。
前述した通り、「証拠の偏在」が著しい本件裁判において、被告は、対象文書(実験ノート)の特定に関して、原告主張を否認する場合には、自ら積極的に、実験担当者の氏名を全て明らかにすべきである。
具体的には、
①.被告は、訴状別紙請求文書目録1記載の全ての実験に関して、川田氏が実験を担当し実験ノートを作成したことを否認している。従って、被告は速やかに、この実験に関し、実験担当者の氏名を全て明らかにすべきである。
また、川田氏自身、第一次実験ノート裁判の証人尋問で、本研究プロジェクトの「開発」がスタートした当時、川田氏が実験ノートを作成していたではないかという質問に対し、
《当時は書いていたと思います》(甲16証人調書8頁12行目)
と被告主張と矛盾する証言をしている。
②.訴状別紙請求文書目録3の論文(甲11)は、2005年、被告が本GMイネの野外「栽培」実験を実施するにあたって、本研究プロジェクトの「開発」のそれまでの研究成果を集大成して世に問うた、被告にとって渾身の論文である。
ところが、被告は、この論文(甲11)に記載の全ての実験に関して、川田氏が実験を担当し実験ノートを作成したことを否認している。しかし、本研究プロジェクトの「開発」で2000年に発表した論文(甲31の4枚目に記載の論文①)の執筆者として「科学技術振興機構」から派遣された技術者たちが記載されていることからも明らかな通り、論文で取り上げる実験を担当した者は論文の執筆者として名を連ねるのが通常である。ところが上記論文(甲11)に執筆者として名を連ねる川田氏以外の2人はいずれも彼の研究を管理する上司(研究推進責任者など。甲12の2枚目の表を参照)であり、彼らが実験担当者でないことは明らかである。してみると、被告によれば、論文(甲11)に発表された本研究プロジェクトの各実験を担当した者は誰もいなかったことになる。被告は、速やかに、これら全ての実験に関し、実験担当者の氏名を明らかにすべきである。
③.被告は、特許庁に提出された甲9・同10の各実験成績証明書に記載の実験に関しても、川田氏が実験を担当し実験ノートを作成したことを否認する(被告準備書面(3)9頁(3))。しかし、上記証明書には、「実験者」として川田氏の名前が記載されている。にもかかわらず、これを自ら否認する以上、被告は速やかに、真実の実験者の氏名を明らかにすべきであり、なおかつ上記証明書に不実の記載をした理由も明らかにすべきである。
以 上
1.本件情報公開請求日までの、訴状別紙請求文書目録記載の実験に関して、下記の2名に限らずすべての実験担当者が作成したすべての実験ノート、或いは実験野帳、フィールドノート、実験記録、実験日誌、研究ノート。ラボノート。ラボラトリー記録、業務日誌、実験ファイル、実験ホルダーなどその他名称のいかんを問わず実験の生データ(raw data)を記録したすべての書類(アナログデータ及びデジタルデータ)。
記
ア、川田元滋
イ、大島正弘
2.本件情報公開請求日までの、訴状別紙請求文書目録記載の実験に関して、川田元滋が作成した、実験内容を検討し或いは報告するために作成したすべてのプロジェクト報告書(アナログデータ及びデジタルデータ)。
以 上
[1] 本来、証明責任とは、訴訟審理終結後の判決作成にあたって、特定の主要事実が真偽不明(ノンリケット)の場合にどうするかという規準を定めるものであるが、この規準が訴訟審理の過程において当事者の行為規範として機能する面に着目して、証明責任を負わない当事者の審理過程における主張・立証の義務について論じたのが事案解明の責任論である(松本博之・春日偉知郎)。本書面も、事案解明の責任を文字通り訴訟審理における事案解明の問題として論じるものである。
[2] 竹下論文が最初に取り上げた福島第2原発訴訟福島地裁昭和59年7月23日判決「本件原子炉の安全審査資料はすべて被告の保持するところであり、原告らに比べてその専門的知識等においても優位に立つと考えられること及び本件許可処分に瑕疵が存することによって生ずる虞れのある原告らの生命、身体等への影響の甚大さ、すなわち右処分に係る保護法益の重大性等を考慮すると、右の合理性の立証は被告が負担すべきであると解するのが公平であり、条理上も妥当である。」
0 件のコメント:
コメントを投稿